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4,三十分の一 氷雨の中を逃げるように帰ってきた。制服の上着とコートを椅子の背凭れに放り投げて、ノンストップでベッドに四肢を投げ出す。ズボンに皺が出来るがそんなのは知ったことか。 自室を片付けて掃除をして――といった当初の予定をこなす気も起こらない。教室を出る時、ハルヒの顔を見ておけばよかったかと思う。……いや、見なくてよかった。見ていたらきっと……なんでもない。 ケータイにいつの間にか来ていた着信は古泉から。「何かありましたか?」という簡素なショートメールは修飾や回りくどさといったものを極限まで削り取ったようで、あの話好きからのメールとは思えない。とりあえず「お前には関係ない」と返信。 即座に返信。「いつでもご相談下さい」との内容。どこまでも胡散臭さが付きまとうのは、これはもうあの男の持って生まれた性質なんだろうさ。とりあえず、ケータイは床に投げ捨てた。 ……俺の部屋、こんなに広かったか? 古泉は「何か有った」事に気付いている。それは言い換えれば「古泉の身に何か有った」って事に他ならない。ならば、今頃ハルヒが閉鎖空間で暴れまわっているのか――まあ、そうだろうな。それもきっと尋常じゃない暴れ方をしていやがるに決まっている。 そうやってハルヒはストレスを発散しているって話だったからな。 「俺もサンドバックでも購入するかね」 天井に向けて問い掛けてみても誰が答えてくれるワケもない。と、思っていたら「にゃーん」と返答が有った事に俺は少し驚いた。 「にゃあ?」 「シャミセンか……驚かすなよ、お前」 どうやら部屋の戸をちゃんと閉めていなかったらしい。見ればわずかに隙間が開いており、それにしたってよくあれだけの間隙を縫って侵入出来たな、シャミセン。猫にしておくのが勿体無い。お前なら凄腕のスパイにだってなれるだろうに。 「なんだ、お前がサンドバックになってくれるのか――なんてな。冗談だよ」 もしも言葉が通じていれば即座に逃げていただろうシャミセンは、しかし俺に擦り寄って臭いを嗅ぐのに余念が無い。こうなるとシャミセンを普通の猫に戻してしまったことが途端に悔やまれる。 意思の疎通が出来たのならば、古泉なんかよりもよっぽど役に立つ相談相手になってくれただろうに。 どうやらシャミセンは俺の部屋を今日の定宿に選んだようだった。座布団の上で丸くなったところから察するにスリープモードへと移行する気なんだろう。そののほほんとした様は何も悩みが無さそうで俺としちゃ心底羨ましい。 今度生まれ変わる時は猫にしよう、うむ。 ぐるりと転がって、天井向けて大きな溜息を一発……はあ。 …………あーあ。 …………やっちまったなあ。 何やってんだか。いや、だが。これからの事を考えたら、そろそろ勉強に勤しまねばならない俺の足を引っ張るだけでしかないSOS団はここらが潮時だったんじゃないか――なんて言って自分を誤魔化せたらどんだけ楽だろう。 生まれてこの方、気分のいい正論なんてものに出会ったことが無い。 やってらんないよな。俺はいつの間にやらあの部室が結構気に入ってしまっていたのだ。自覚してもうそろそろ一年になる。 宇宙人、未来人、超能力者が雁首揃えてボードゲームに興じるあの客観的に見て有り得ない空間を、そしてそこから巻き起こるあれやこれやのドタバタを、俺は楽しんじまっていた。 一言で言って「大切」だったのだ。 それを――何、自分から抜けてんだよ。 ああ、返す返す。さっきの俺は馬鹿だった。アイツの一言くらい捨て置けばよかったんだよ。もしくは詰問されるがままハルヒにちゃんと説明して、至極当然と帰れば良かったんだ。 「どうして」「なんで」をいくら積み重ねようと時間は巻き戻らない。 同様に口から出した言葉は取り返しようがない。 「なあ、シャミセン」 「にゃあ?」 既に寝ていると思われたソイツは、しかしどうやらリラックスしているだけのようだった。俺と同じだ。 「俺はどうしたらいいんだろうな?」 「……にゃぁお」 分かるわけ、ないよなあ。溺れるものは猫にも縋る。また一つ新しい日本語を捏造してしまった。 ……あ。 これがホントの「猫の手も借りたい」か。 ――キンコン、と。チャイムの音で眼を覚ました。どうやら布団も被らずに寝てしまっていたらしい。この季節にうたた寝なんてしていると風邪引くぞ、などと自分に言い聞かせてみる。とは言え、エアコンのお陰でそこまで寒いという事も無かった。 昨日の教室で凍えていたハルヒの姿をなんとなく思い出す。……そこに意味なんてない。 ぼんやりしていると階段を駆け上がってくる足音が耳に届いた。十中八九、妹だろう。 「キョーンーくーーん!!」 バタン、と部屋の戸が開けられる。予想は当たり。何度言ってもノックするという習慣を身に着けない妹だ。かと言って看過する事も出来ん。 「ノックをしろ、ノックを」 「あ……てへっ。ごめーん。忘れてたー」 そして三歩歩いてまた忘れるんだろう。それくらいは眼に見えていた。そんな妹は何事かを言う前に部屋の座布団で俺同様惰眠を貪っているシャミセンを目敏く発見した。 「シャミー! キョンくんの部屋に居たんだ。探してたんだよー」 どうやら感動の再会らしい。言いながら猫をその胸に抱き、部屋を出て行こうとする我が妹。いや、お前は何をしに俺の部屋に来たんだよ。 「おい、何か用が有ったんじゃないのか?」 妹は小首を傾げ、そして一昔前なら電球のマークが頭上に現れただろう笑顔で俺に告げた。 「そうだ。あのね、キョンくんにお客さんが来てるよー」 ……そういう事は早く言ってくれ。反射的に机の上の時計を見れば、ああ、もうこんな時間か。来客に当たりを付ける。 「佐々木か?」 立ち上がり、部屋を出る妹に追従しながら問い掛ける。シャミセンは迷惑そうな顔をしていた。 「うん、佐々ちゃん。久しぶりだねー」 果たして妹の言うとおり、階段を降りればそこには玄関で所在無さ気に佇む親友の姿が有った。彼女は俺を認めると、髪を二、三回手櫛で梳いた後に微笑んで。 「眠そうだね、キョン」 開口一番、鋭い観察眼を披露した。 「そんなに褒められるほどのものじゃないよ。ただ、寝癖が付いているってだけさ」 それこそ褒められたモンじゃないな。ああ、少しだけ恥ずかしい。 「悪いな、ついさっきまで寝てたんだよ」 「だろうね、顔に書いてある」 ばつが悪い俺に相反して少女は微笑を崩さない。 「あー……まあ、なんだ。とりあえず上がってくれ」 「うん。お邪魔します」 脱いだ靴を几帳面にも揃えようとしゃがんだ佐々木であるが、 「……あ」 正直俺としては眼のやり場に困った。スリムデニムって言うのか、身体の線が浮き彫りにも透かし彫りにもなる黒のパンツルックは、ソイツがしゃがみこんだだけでその柔和な丸みの全容を俺に強制的に妄想させる。頼みの綱の防寒具もその女性的な曲線を隠せない腰丈のショートコートだった日には……。 ああ、俺は友人をどんな邪なる目で見てしまっているんだ。スマン。本当にスマン、佐々木。 頭を掻きながら階段を上る俺に佐々木は付いてきた。背中から声が掛かる。 「部屋は昔のままかい?」 そう言えば前に佐々木がウチに来たのはもう二年も前か。 「位置を聞いてるのなら回答は変わらず、だ。内装を聞いているんなら、流石に変わらないとはいかないな。色々、物は増えてる」 言った後で、佐々木に家捜しを推奨しているようだと気付いた。が、冗談ではない。青少年御用達のあんなモンもこんなモンも隠蔽工作を施してはいないんだ。慌てて取り繕う。 「って言っても別に面白いようなものは無いけどさ」 自然な感じで言えただろうか。自分では言えたと思う。少女はと言うと「そうかい」と四文字しか返って来なかったところから、何を考えているのかを俺に推測しろってのも無理な相談だ。 さて。 自室に同年代の美少女を招き入れる。 それも複数ではない。一人だ。少女一人と、俺一人だ。なにかいけないことをやっている気分に俺がなってしまってもそれは致し方の無い話だと客観的に鑑みてもそう思う。 「なあ、佐々木」 「ん? なにかな?」 部屋の前で立ち止まった俺に彼女は、しかし邪気の無い眼で見つめ返してくる。なあ、なんで俺が罪悪感に苛まれなければならないんだ? 「いや、その……だな。今更なんだが」 「もしかして、キョン。自室に異性を入れるのを戸惑っているのかい?」 見破られていた。 はあ。その言葉の意味を理解しているであろうにも関わらず、どうしてコイツは変わらず笑顔でいられるのか。俺には女という生き物がほとほと理解出来ない。 佐々木然り、ハルヒ然りだ。 俺の周りが特殊なだけだろうか。その可能性は十分に有る。国木田の「変な女」というフレーズがふと頭に過ぎった。 「……ふう」 深呼吸。名探偵ホームズさんは読心術もお手の物らしいぜ。それともこれもやっぱり顔に書いてあったのかね。 「……まいった。ああ、その通りだよ。正直、戸惑っている。いや、誤解しないでくれ。家庭教師をしてもらうだけ、なんてのは分かってるし、勿論それだけのつもりなんだが……それにしたって、な」 佐々木は友人である。親友と言って貰えているし、俺だってその関係を疑ってはいない。 だが、だ。 しかして俺は男であり、そして佐々木は言動、行動の端々でやはり確実に女なんだ。俺とコイツの間で間違いはあってはならないし、俺は何より佐々木に嫌われたくない。 「リビングで勉強って手も」 「キョン」 俺の言葉は優しく遮られた。 「……寒いんだけど」 屋内とは言え廊下は冷える。佐々木は俺から見ても演技だと分かるくらいにわざとらしく見せ付けて両手を擦った。 「君の煩悶は理解した。だから早く中に入れてくれないかな」 本当に分かっているのか、いないのか。であっても俺に否定を言わせる気がないことを少女はその眼力でもって伝えてきた。 ノーと言える日本人になりたいもんだ。はあ……どんな噂を立てられても俺は知らんぞ。 「分かった」 戸を開けて中に入る。この部屋に誰かを招くなんてのはいつ振りだ? 夏休みに宿題の総浚いをSOS団全員でやった時か……ああ、十月に古泉とハルヒのことで作戦会議をしたな、そういや。 椅子に腰掛ける。学習机のライトを点し、リモコンでエアコンの温度を調整した。鞄から筆記用具を取り出して……横を見ると佐々木が部屋の入り口で立ち尽くしていた。 「……どうした? 何か珍しいものでも有ったか?」 物珍しいのはシャミセンの毛くらいだと思う訳だが。むしろ俺にとっては今の佐々木の方が珍しいものを見た、って感じだ。落ち着こうとして失敗しているような。少女の視線は右往左往して、別に室内に蝶なんかひらひらと飛んじゃいないんだけどな。 まるで借りてきた猫だ。 「……いや、珍しいと言うか……ね。上手く言えないのだけれど」 「けれど?」 「キョンの部屋なんだな――と思って」 「なんだ、そりゃ?」 当たり前のことを感慨深そうに言われてもな。正直、俺としちゃリアクションに困る。 「さっきも言ったが面白いものは何も無いぞ」 有っても見せられる類じゃないしな。間違っても女子と二人で見るモンじゃない。そうは言っても俺にとっては聖書な訳だが……と、なんでもない。忘れろ。 「いやいや。なにか特定のものに関心を抱いているのではないよ、キョン。……さて、と」 俺に向き直った時、佐々木はいつもの佐々木に戻っていて。少女が部屋の戸を閉める時に、何かを言いそうになったのはなんとか堪えた。二人きりを意識していると思われるのは癪だったし、二人きりだって俺自身あまり意識したくはなかったからだ。 「本来の目的をこのままだと忘れてしまいそうになる。早速だけど始めよう」 「おう。よろしく頼む」 佐々木と俺の間に今更、性別なんてものを挟むのは野暮なだけだ。それこそ空気読まないってヤツだ。俺はそこまで鈍感なつもりは無い。 「……キョン?」 「ん、どうかしたか?」 「出来れば君の隣に座れるよう、椅子を用意して貰えると嬉しい」 佐々木はコートを脱ぎながら、 「それとも、君のベッドにでも座っていようか?」 そんな一言でベッドに横たわる親友の姿を想像しちまった俺は、ああ、最悪だ。妹の部屋から借りてくると言い残して慌てて部屋を出た俺の耳に少女の、喉の奥でくぐもるような独特の笑い声が聞こえた。 佐々木先生の家庭教師は少なからず学校の教師よりも効果を実感出来るものだった。土台の反復練習から始まり、俺が指を動かしている間も読み聞かせは途切れない。後から聞くとそれは指と眼と耳と、使えるものを全て活用するというやり方らしい。 一時間もすると俺は、今やった二十ページほどの内容からならばどのような問題を出されても答えられる自信を付けていた。なんだろうか、この達成感は。まるで魔法のようだ。 「佐々木」 「なんだい?」 感想は素直に口を突いた。 「お前はいい教師になれる。俺が保障する」 瞬間、佐々木が小さく吹き出した。人が真面目に言っているのにどうして笑い出すんだよ、お前は? 「飲み物を口に含んでいない時で良かったよ。危うく君の衣服を汚すところだった。――キョン。今度からそういった突拍子の無い事を言う時は事前に警鐘を鳴らしてくれ」 無理を言うな。大体、俺は今面白いことを言ったつもりなんて欠片も無いっていうのに。 どうしろってんだよ、実際。 「……もしかして俺が悪いのか?」 微笑を浮かべる佐々木の眼は下弦の三日月を模して、意地悪く俺を糾弾した。 「もしかしなくとも、君が悪い」 マジか。人を褒める行為すらTPO次第では悪行へと変貌してしまう現代社会に俺としては強く危機感を覚える。悲しいね。 「言わんとする事は分かる。けど、生業として教師を選んだ人たちと今の僕とではどうあっても比較にはならないよ」 佐々木は冷めてしまったコーヒーを一口含んで、 「彼らは複数を相手に授業を行っている。三十人余といったところかな。キョンの学校も一クラスの人数はあまり変わらないだろう? つまり、単純に考えて伝える力は一人頭三十分の一まで落ち込んでしまうことになる。それで授業を成立させなければならないのだから、先生方には文字通り頭の下がる思いさ」 三十分の一……まあ、そう聞くと確かに教師ってのは難儀そうだな。俺なんかが簡単に薦めて良いものじゃ、どうやらなかったらしい。 「なるほどな」 「とは言っても、だ。褒められた事それ自体は嬉しいよ。ありがとう。まあ、二年前の経験と反省を活かしているからね。多少、教え方も上手くはなっているという実感は有る」 確かに。二年前は卓袱台に頭突き合わせて一緒に勉強して、分からないところを教えあうスタイルを取っていた。だが、今回の佐々木は違う。 俺の向かいではなく隣に座り、ただ参考書を開いているだけ。まず、舞台が卓袱台じゃない。だから、その手に筆記用具は無いしそもそものノートを佐々木は持たない。 その様はちっとも急ごしらえの家庭教師には見えないくらい堂に入っていた。 「しかし、これは八割方君のためだ。残りの二割はバイト代のためで、残念ながら家庭教師にも教師にも僕はなろうと思ってはいない。だから手際を褒められても、うん、ここまで言えば分かるだろう――僕が笑ってしまった理由も」 的外れ、だな。 「その通りさ」 そこで俺はふと疑問を抱いた。いや、どうって事もない、そりゃもう他愛もないクエスチョン。 だが、最近俺の胸中に巣食っている元凶――なのかも知れないヤツ。 「つまり、佐々木よ」 「ん?」 「お前は将来なりたいものが有るのか?」 佐々木は眼を細めて即答はせず、値踏みするように俺を見た後でくすり、笑った。 「キョン、君には無いんだね」 多分、ざわついているのは「これ」なんだろう。原因か、遠因かは知らんが。 俺は肯定した。否定なんて出来るはずもないしさ。 「なりたいものが僕には有るよ。確固として、なんて言えるはずもないけど。そうだね……出来ればなりたい、くらいの気持ちでしか今はない。けれどそのために今やれる事はそれなりにやっている。具体的に言えばそれは受験勉強で誰しもがやっている事になってしまうが」 親友の言葉は、眩しかった。正直に言ってしまえば――嫉妬。そう、俺は少女に嫉妬していた。 「俺には……俺にはそういうの、無いんだよな」 「そうか」 「なあ、佐々木」 「ん? なんだい?」 親友の眼を見る。それはぶれない人間の持ち物だってのが一目で分かってしまう真っ直ぐなもので。 俺に無いもので。 佐々木が持っているもので。 俺に無いもので。 ハルヒもそういえば同じ眼をしていたか。 「お前らばっか、ずるいよ」 情けないことを言っているのは分かっている。 けど。 知りたかった。同じ目線に立ちたかった。情けなくとも、みっともなくとも、それでも置いていかれるのはどうしても嫌だった。 「『そういうの』って、どうやって見つけるんだ?」 目の前の親友以外にこんな事を吐露出来る相手なんて、俺にはいない。なあ、佐々木。春に再会した時にお前が言った、そのとおりじゃないか。 親友。 俺がそう呼ぶのは、実はも何もお前だったんだな。先見の明だ。ブラボー、ブラボー。拍手喝采。 でもって、その明晰さで。 どうか俺にも道を示しちゃ貰えないだろうか。 「……キョン」 太ももの上でずっと開いていた参考書をパタンと閉じた佐々木は苦しいような嬉しいような、笑っているようにも泣いているようにも見える曖昧模糊な表情をした。もうあと一ミリ目尻が下がればそれは泣き顔になるだろうし、二ミリ口角が上がれば笑顔にだって見えるだろう。 「それは人に教えて貰えるものじゃない。分かっているだろう? 教えてあげられるものでもないんだよ」 「――だけど」 「だけども何も無いよ。例外も抜け道も裏技も無い。例えば僕が君に宇宙飛行士になりなさいって言って、君はそれを自分のなりたいものだと思えるかい? 思い込めるかい?」 「違う。そうじゃない。俺がなりたいものズバリそのものを教えてくれ、って言ってんじゃなくって、ええと、なんだ、もっと、その取っ掛かり――そう、取っ掛かりの部分をだな」 「だから、それがさ」 佐々木は窓の外に視線を投げた。 「出来たら苦労しない、って僕はさっきからそう言っているつもりだったんだけど、分からなかった訳じゃないんだろう、キョン」 ……だよな。自然と溜息が零れた。 「なんか、すまなかったな」 「いや、別にいいさ」 思い返すとかなり恥ずかしい事を言っていた気がする。途端に自己嫌悪にどっぷり浸かりそうになって、いや、でもこんなんは俺ばっかりの悩みでもないだろと慌てて自己弁護に思考は走った。高校生なら普遍の議題であろう。 「気持ちはね、分かるんだよ」 なりたいものが有ると、俺に向けてそう言い切った佐々木はけれどシンパシを抱けると。 どういうことだ? 「ねえ、『そういうの』を僕が最初から持っていたと思うかい? キョンが今抱いている悩みは高校受験の時に僕が抱いていたものに、そっくりだよ」 くつくつと、佐々木は笑って。それはなんだ? 俺の精神年齢がお前より二年ほど遅れてるってそういう――馬鹿にされているようにしか聞こえないぞ。 もしかして俺、怒っていいのか? 「いやいや、こういうのは時期がバラバラで、それで当たり前さ。早い遅いは個人差で、そこに優劣は無い。人格の問題に転化するなんてのは以ての外だ」 「……そうか?」 「そうだよ。だから、恥じ入ることじゃない。むしろね。僕は非常に嬉しいんだ。こうして君から頼って貰えることが。こんな悩みをキョンから打ち明けられる自分を」 佐々木は笑顔で。 「誇りに思う」 つられて笑顔になってしまう俺がいた。 まったく不思議だ。こんな悩みを打ち明けたのに。 俺は佐々木に向けて笑えてしまっている。 「なんだよ、それ」 「おかしいかな? 僕としては非常に名誉なことなんだが。少々、個人的過ぎただろうか。いや、共感して貰おうなどとは露ほどにも思っていないさ。して貰いたくないとまで言ってしまえそうだ」 せっかくだし独占したいじゃないか、と佐々木はほんの小さく呟いて。 「キョンもいよいよ受験生らしくなってきたね」 俺の親友は満足そうにそう言った。 佐々木はどうやら夕食をウチで食べていくようだ。という事は……アレ? 何時まで居るつもりなんだよ、一体。 「気の済むまで、だね」 「ちょい待ち。それは俺のか、それともお前のか?」 それが問題だ。だってのに佐々木は事も無げに、 「両方」 おいおい、簡単に言ってくれるじゃねえの。 「両者の合意をもって授業終了とする。本来、教育とはこう有るべきだと思わないかな?」 「思わないな!」 本気と書いてマジで。佐々木はいつまで居る気なんだ? 現在時刻は十八時過ぎで夕食までは秒読みに入っている。いつもならそろそろ妹が呼びに来る頃だった。 「まあ、日付変更前にはいくらなんでも帰るさ」 「リミットが遅過ぎるだろ」 呆れて言う俺に、佐々木は足を組み替えながら笑った。 「君の受験生としての自覚と果たしてどちらが遅いかな? ……っと、これは少し意地悪が過ぎたね。くっくっ」 おちょくられている。なんとか言い返そうとしたが……ダメだ。口でコイツに勝とうとするその考えから既に間違っている事に気付いただけに終わった。 「まあ、実際問題としてだ。遅れている分を取り戻すのだから相応の時間は掛かる。覚悟しておいてくれ、キョン」 因果応報。これまで碌に勉強してこなかった事がここに来てずっしりと圧し掛かる。しかも親友まで巻き添えにしてだ。情けないな、まったく。 「そう卑下しなくてもいいさ。さっきは君をからかうためにあえてああ言ったけどね。遅過ぎるなんて事はまるでない。この時期なら十分取り返せるさ」 「そうは言うけど佐々木よ」 実際問題、俺はほぼ二年間の授業をまるまる溝に捨ててきたようなモンだ。その二年間を一年で取り返すなんてのは長門に時間でも操作して貰わん限り難しいだろ。 「言葉を返すようだけど」 しかし、それでも俺の親友は言うんだ。言って、そしてそれは俺を納得させてしまえる。 まるで、宇宙人のように。未来人のように。超能力者のように。異世界人のように。 「三十分の一だよ」 説得力の塊。ユーモアの権化。それはまるでもう一人の――。 いや。頭を振って馬鹿な考えを捨てる。 佐々木は、佐々木だ。他の誰でもない。そうだろ? 夕食の席で俺たち……否、俺はこれでもかとお袋にからかわれた。思い返すのも嫌になる。 佐々木を伴っての食卓なのだから過去を振り返るまでもなくこうなるのは予想していたのだけれども、それにしたってしかしお袋には俺の予想を裏切って貰いたかった。勿論、いい意味でだ。 歳を取ったら俺もこんな風に若者をからかわずにはいられなくなるのだろうか。いや、自分がされて嫌だったからこそ、それを反面教師としなければなるまい。うむ。 しかしながら、テーブルへと今夜一番の爆弾を投げ込んだのはお袋ではなかった。なら誰だったのかと聞かれれば該当者なんて我が家に一人しかいないだろ? 「佐々ちゃん、いっそウチの子になっちゃいなよー」 この一言には流石のお袋も凍りついちまった。この親にしてこの子有りってのはよく聞くが、それでも母親が余りにかわいそうだった為にこの場面で使うのは躊躇われたくらいだ。 小学校六年生。もうそろそろその手の発言の深い意味は分かるはずだろう。弟妹が欲しいだの、赤ちゃんはどうやって産まれるのだのといった愛らしくも回答に困る具体例を持ち出すまでもなく年齢とともに禁句は増えるものなんだ。 それでも。突発かつ緊急事態でありながらもあっさり無難に受け流した佐々木に俺は賞賛を贈りたい。俺ではとても穏便とはいかなかっただろう。 「しっかし、咄嗟によく出て来たモンだよな」 「出て来た? なんの話だい?」 俺たちは夕食を終えて授業を再開していた。学習机に向かう俺の隣七十二センチという位置を少女は定位置としたらしい。近からず遠からず。全ゴルフプレーヤ垂涎の絶妙の距離感。古泉のヤツにも教えてやって欲しい。 「いや、さっきの。ウチの子にならないかに対して『その時はよろしくね』だったか。曖昧に濁すってのは例えば俺が同じ事をやろうとすると『考えておく』になるんだが、いくらウチの妹が相手とは言えやんわりとした否定だってのが丸分かりだ」 「……だね」 「お前のはさ、こう、肯定しているようにも取れなくはないっていうか、いや社交辞令なのは誰の眼にも明らかだが」 しかしながら妹の眼(この場合は耳か?)には映らない絶妙のラインだった。参考書を眺めながら横目でチラリと少女の横顔を覗、ヤベ、眼が合った。 「ふーん、社交辞令。社交辞令か。キョンはそういう風に受け取るんだね。そうか……それは残念だな。僕は本当に脈無しらしい」 「……あのなあ」 一体どこまで本気なのやら。 まかり間違えて真に受けてしまいそうな、健全な男子高校生ならば深い意味とやらに自ら率先して取り違えにいきそうな。 そんな表情と言い方を佐々木はしたわけだが……残念ながらそんな器用な勘違いは俺には無理な相談だ。なぜなら、俺は佐々木のことをそれなりによく知っているから、となる。 このシリアスぶった顔は過去に何度か見ている。俺をからかっている時の顔だ。そうだろ? 「佐々木よ。多感な年頃の青少年を弄るのは決して良い趣味とは言えないな。ウチの母親とやってる事が大差無いぜ。玩ぶにしても、もうちょいと捻るべきだ」 俺が言うと佐々木は破顔した。 「くっくっ。冷静だ。もう少し動揺してくれるのを期待していたんだけれど、流石はキョンと言うところかな。うん、面目躍如だね」 「お褒めに預かり、光栄だ」 それでも内容の五割ほど馬鹿にされている気がする。いかんいかん。どうにも被害妄想気味だな。 ……自虐、かも知れん。自分をいじめて喜ぶ変態趣味なんか持ってはいないはずなんだが。 佐々木はニコリと笑った。そして口を開く。 「……それとも」 今日、一番の爆弾が俺に向けて投げ込まれた。 「君を驚かすのは――涼宮さんの領分なのかな?」 「はあっ!?」 叫んだ後で我に返る。しまった。口にも顔にも動揺がこれでもかと出てしまった。 「ど、どうしてそこでハルヒが」 声が上ずる。 「ハルヒが出て来るんだよ」 「おや、どうしたんだい、素っ頓狂な声を出して。もう少しクールな性格をしているとキョンを評価していたのだが、どうも僕の中の君の人物像に若干修正の余地が有るようだ」 汚名挽回、名誉返上。そんな言葉遊びで現実逃避を試みても、それこそハルヒの領分だ。どんだけ穴が有ったら入りたくとも、頭隠して尻モロ見えって具合に恥の上塗りも十分承知。 つまり、ここは佐々木戦法、こちらから逆に乗っかっていって有耶無耶にするのがベストと俺は見た。 「豊かな感性の持ち主だと備考欄に加筆しておいてくれ」 「分かった。それで?」 「『それで』の意味が分からん」 「涼宮さんと聞いて目に見えて狼狽した、その理由について説明を求めてもいいかな?」 眼を伏せた少女は……睫毛長いな。 「何か有った、のだろう? そうでなければいささか以上にキョンの態度はおかしい。 涼宮さんとの、もしくはSOS団の間で問題ないし事件が起こっているのではないかな。君はそれに僕を巻き込みたくないと考えている。 そう、僕は推理するよ。僕に対して涼宮さん関連の話は極力しないでおこうとさえ思っていたんじゃないのかな? 思い返せば一時間以上顔を合わせていながら、僕と君との関係において彼女、もしくはその周囲の愚痴すら聞かれなかったというのは出来過ぎだ」 対してお前は考え過ぎだと俺がたしなめる間もなく、佐々木の的外れな推理発表会は続く。 「これは君がわざとそれた方向に会話を誘導した結果だろう。ああ、自分を卑下する必要は無いからね、キョン。勉強に集中している振りは見事だったよ。君の天職は実は役者なのではないかと勘繰ってしまうほどだった」 演劇部に興味が無いどころか、学祭でも演者ではなく裏方に徹していた俺に何を言っているのやら。 それに勉強に集中していたのは本当であり、これまた天職ではないかと疑ってしまう佐々木のゴッドハンドっぷりに引きずられただけであるのだが、それを指摘してもこの親友は謙遜に謙遜を重ねるのだろう。 「君が話をずらしたのが故意ならば、僕が彼女の名前を出したのも故意だが。それでもここまでキョンが動揺するとは思ってみなかったのは本当だ。少しばかり僕も驚愕に釣られてしまったほどさ。 端的に言ってあの反応は異常だね。確実にいつもの君ではない。となるといつもではない、何か特別な事情が君の方に存在していると見るのが筋だろう」 ニヤリと笑うその眼にわずかばかりの期待を乗せて。 おいおい、佐々木よ。何を考えているのかは俺にも心当たりというか身に覚えが有るというか、なんかそんなのなんだが、ここ半年でお前までハルヒズムに感染しちまってたんだとしたら、それは多少なりと俺の責任でも有るのだろう。 「はあ……やれやれ」 「その溜息の出所は僕絡みかい?」 まあ、概ねその通りだ。だが、それだけでもなかった。足を組み直す佐々木は俺に向けて言う。 「それとも」 それとも――、 「涼宮さんかい?」 ズキリ。幻痛が胸を貫いた。溜息の出所は肺で間違いないことを痛みをもって俺に教えてくれている。 ――今のは顔に出てしまっただろうか。かも知れない。そもそも俺は表情を隠すのが上手くないからな。豊かな感性の持ち主だし……と、そうい う事にしておこう。 「どうやら図星のようだ」 「そういうお前はどうなんだよ」 「どう、って?」 「お前、なんだか嬉しそうだぞ」 佐々木は耳の上を手櫛で軽く梳いた。 「まあね。はたで見ている分にはそこそこに刺激的なんだ、君達は。他人事だから楽しめるっていうのは、きっと渦中の本人に言うべきではないのだろうけど」 「全くだ……ま、でも」 言われて気を悪くするのは、もう俺には無理そうだった。 『窮地』は脱したのだから。 「俺、SOS団辞めちまったしな」 「え?」 呆気に取られたような、口を半開きにする佐々木は俺が初めて見たかも知れない素の表情で、出来ればこんな話題で見たくはなかった。 「……ちょっと待ってくれ」 佐々木は右手を、その手の平からエネルギー波でも放つように俺へと翳した。 「今、僕の耳にはSOS団を辞めた、と。そう聞こえた訳なのだが」 なるほど。余りにも信じられなかったが為に、自分の聞き違えを疑ったのか。まあ、部活を辞めたってのは確かに大事件ではあるのかも分からん。しかし果たして見事なまでに個人的な内容のそれに佐々木が狼狽するような要素が有っただろうか。 いや、無い。 「ああ、そう言った。俺は、SOS団を、今日、退部した」 聞き直しが無いように一語一語を区切って強く発音する。音楽で言うところのクレッシェンドだ。あれ、スタッカートだったか? まあいい。 「今日? それはまた……どうして?」 どうしてだろうなあ。後頭部をワシワシと掻き混ぜてみたが、該当はゼロ。直接的な理由はただの着火でしかないのは明白だった。 「焦り……だったんだろうなあ」 置いて行かれたくないという漠然とした未来への不安。そしてそれを払拭する為の行動へと至れない自分の不出来。そういったものの理由付けに俺はきっと心の隅っこでSOS団を用いてきたのだ。 テストが出来なかったのは超能力的な世界平和に貢献していたからだ。 勉強時間が取れなかったのは宇宙的な侵略計画へ異議申し立てを行っていたからだ。 通知表が散々なのは未来的な平行世界増殖を未然に防ぐため奔走していたからだ。 俺が何もしてこなかったのはSOS団に在籍していたからだ。 少しもそんな風に思っていなかったと、言えばソイツは嘘になる。そして隠れ蓑にするには「そこ」は楽し過ぎた。不安が育ち切るまで眼を背け続けられるくらいには。 「……焦り、か」 俺に一体何が有ったのかの、その八割くらいは理解してしまっているような深い感情を佐々木はたった一言に乗せた。 「だから、まあ、口にするのすら情けないが退部の理由は八つ当たりだ」 八つ当たり。なんて身も蓋も、そして救いようすら無い理由だろうか。けれど今更仕方が無い。弁解なんて出来ないし、復縁も考えちゃいない。 だから逃げるように今はただ勉強に打ち込みたかった。佐々木の黄金色の手腕は、そういう意味じゃ俺にとって渡りに豪華客船だった訳だ。 「……そう、八つ当たりだ」 自分に言い聞かせるように繰り返した。それから俺は佐々木に向けて何を口にしただろうか。言葉少なくぽつりぽつりと低空飛行を続ける成績への愚痴を吐き散らしていたような気もするし、自分の不甲斐なさを重低音でわめき散らしていたかも知れない。 正直この辺りは感情のままに喋っていたせいで内容をよく覚えておらず、もし佐々木に酷い事を言っていたとしても一つとして不思議じゃない。覚えてないってのはなんて万能な、そして誠意の欠片も見られない言葉なんだろうとよくよく思うよ。 本当に思い出したくもない。それは……これは――、 「逃げてるだけじゃないか」 ハッとする。我を取り戻して佐々木を見上げれば(いつの間にやら下を向いていたようだった)、少女はそれでも俺に微笑みかけていた。こんだけ無様な男を前にして「女神かコイツ」などと思ったりもしたが、いやいやその比喩は心底笑えない。 佐々木は慈愛に満ちた女神なんかじゃない。それを俺に再確認させるように、その眼は一つも笑っていなかったし語気は有無を言わさない厳しさに満ちていた。 「今度は僕を逃げ場にする気かい、キョン?」 「そんな……そんなつもりは」 違う。そうじゃない。まったくの誤解だ。真逆と言ってもいい。俺よりも数段賢いお前が分からない訳ないだろ? ハルヒプロデュースのファンタジィから現実への着地をしようとしてんのに。応援して貰えるものだと、歓迎してくれるだろうと思っていたのに。 どうして……どうしてそれをたしなめられなければならないんだ。本来、そうであるべきものじゃないのか、人間ってのは。地に足を付けて生きるものじゃないのか。 「涼宮さんはファンタジィじゃない」 なんてこった。 俺は、ハルヒを。 ハルヒをいつの間にかそんな色眼鏡で見てしまっていた事に――気付かされた。 そんな当たり前のことを俺は見失っている。大前提だったはずで、長門も朝比奈さんも古泉も色眼鏡を外せない中、唯一そういったこと抜きに向き合っていける「俺」ってのが必要とされているんだと。 薄々気付いていた。SOS団に何の取り得も無い平凡な俺が招かれた理由。だってのに。 「僕としてはね、君が勉学に励む決心をしてくれたのは自分の事のように嬉しい。それが未来への不安に駆り立てられてというのも、それはそれで別に間違ってはいないとも思っている。 自分から勉強と向かい合える高校生なんてものはごく稀だ。嫌々やらされていても別にいい。好きこそものの上手なれと言うが、それはしかし苦手は上達しないと言い切っていない。希望を摘み取るなんて無粋な真似を先人はなさらないさ。 いや、なに。キョンを貶しているのではないんだ。むしろ君はこれから先よく伸びると思っている。勉学――未来の為に君が熟慮の結果、SOS団を辞めると、そう決めたって構わない……元々僕には何を言う権利もないしね。けれども、だ」 佐々木はそっと目蓋を閉じた。稚児に道徳を説くようにゆっくりと続きを話す。 「それと、涼宮さんに当たる事とは無関係だ。無責任と言い換えてもいい。義理を果たさない友人を僕は持ったつもりなんて無いよ。だから、君には退部という結論に至るまでの経緯を彼女にきっちりと説明する義務が有る」 義務、と言われて甦る苦い台詞。 「なぜ俺はお前に洗いざらい白状せねばならんのかと言っているんだ」。 心情を吐露するというのは中々にハードルが高い。ほら、一番正直なところは言えないだろ、何事も。人間の本音ってのは鋭過ぎて傷付ける事しか出来ないんだ。腹を割ったら話もまともに出来ず、死ぬ。 「心の内をさらけ出せとまでは僕だって言っていないさ。あくまで事務的に、淡々とでいい。僕の見る限り涼宮さんは決して話の分からない人ではないよ。君が受験勉強のために――しいては自分自身の未来のために一番良いと思われる選択をしたと、そう知ればきっと彼女も認めるはずさ」 どうだか。お前は知らないかもしれないがアイツは中々に嫉妬深いし独占欲も強い。素直に「はい、そうですか」とご納得頂ける様子が俺にはとんと想像付かん。また変な理屈を捏ね回すだろうってのに三千点。 そもそも俺はSOS団を辞めたいってんでもないしな。 「知ってるよ」 何を知っているのか。何もかもか。その慧眼は俺なんかに向けられるのが本当に勿体ない。 ハルヒじゃないが、これこそ大いなる世界の損失ってヤツだと思う。うむうむ。 「キョン、君は一度涼宮さんとちゃんと話をしてみるべきだと、そう僕は思うよ」 以上、佐々木大先生のお言葉に愚直に従って俺は、午後十一時現在、ハルヒへの謝罪文をしたためて電子メールへと乗せた。流石に佐々木の見ている前で文章を考えるなんて恥ずかしい真似は出来なかったと言えば分かるだろうが、もう少女は帰宅済みだ。 送信ボタンを押す時に指が震えた。この文面でいいのか、そもそも電子メールという伝達方法でいいのか。悩み出したらキリが無い。 それでも「今日はすまなかった」というタイトルだけは佐々木の入れ知恵で、最初にこちらが下手に出ておけば意地っぱりな少女であってもすんなりと文章に入っていけると……そんなに簡単なものでもないと思うが。 しかして縋る対象としては藁やシャミセンよりもよほど適正なのも事実であり。迷った挙句、最終的に異性の考えることなど俺にはさっぱり分からんと下手な考えは山の向こうへと放り投げ、佐々木を信じることとした。 『タイトル通りだ。悪かった。出来れば釈明をさせてくれたら助かる……ってメールでこれもないか。以上、一方的に書き散らすつもりだ。読んでもらえることを願うしか俺には出来ん。 最近、クラスになんともシリアスな雰囲気が漂っている事にお前は気付いているか? 好意的に言語変換するとアレは受験生としての自覚ってのの表れの一種だ。そして、どうやらソイツは伝染性を持っているらしい。 ここまで言えば賢いお前のことだ。なんとなく察しは付いただろ。でもって俺も類に漏れず感染――朱に交わっちまったらしいんだな、コレが。ああ、流され体質だと今回ばっかりは笑ってくれていいぞ。 率直に、かつ素直に言えば俺は焦っていたんだ。勉強を疎かにしていた事だとか、今まで何をのんきに自堕落かつ無目的に過ごしてきたんだお前は、みたいなアレコレ。自業自得だよな。 自業自得なのに、だ。それでも今日、お前に当たっちまった。本当に悪かった。明日、顔見て謝れるかどうか分からないから、こうしてメールにしてみたが、出来ればちゃんと眼を見て謝りたいし、経緯だってもっと詳しく説明させて欲しい。 もしも、お前が俺を許してくれたとしても、これから足はSOS団から少しづつ遠のくと思う。一応、この身の振り方も俺なりに考えた結果だ。それが気に入らないなら、団長はお前なんだ、退部にしてくれ。 ごめん』 思っている事をそのまま打っただけだった。推敲をしようとも思ったが、しかしそのままの方がこういうのはむしろ伝わるんじゃないのかとベッドの上で煩悶した時間は優に六百秒を越えた。結局、追記は最後の一言に留まって、ほぼ原文ママである。 しかし、俺は本当に文章力が無いな……全体を通じて一貫性に欠けるのは、まるで俺という人間の意志薄弱を写し込んでいるようだ。 「……やれやれ」 5,vision あの後、どうやら俺はケータイを放置して寝てしまったようだった。時間も時間だったし、慣れない頭脳労働は余程堪えたのだろう。メールの着信にも気付かないくらい俺は爆睡してしまっていた。 夢を見た。 それはいつぞや見たことの有る夢で、大学生になった俺がハルヒの膝枕で眠ってしまっていたという思春期の妄想を最大限まで増幅したようなこっ恥ずかしーシロモノだったのだが、いやいや、こんな甘酸っぱいものが俺の深層心理の鏡だなんて。 認めたくないものだな、若さゆえの過ちってのは。 そして、それには続きが有って。そこには長門に古泉、更には朝比奈さんと佐々木の姿まで有った。以上、それが俺の願望だってのに異議申し立てし難いという……まあ、それが未来であったのだとしたら確かに喜ばしいものではある。 誰一人欠けず。SOS団は不滅だってハルヒの言が、願望が真実になってしまうのだとしたら。それはまあ、歓迎すべきなんだろう。というか否定する要素がない。 しかし、その為には俺には圧倒的に力が無いな。現実は夢と違って怠惰に厳しい。 っと、そうだ。メールの内容を紹介しなければならん。夜の内に届いたのは四通。その内訳は二通が迷惑メールだった。いや、三通と言うべきだろうか。古泉から届いたモノに関しては閉口しかリアクションが取れなかったからな。 『貴方の選択と決定を機関としては全面的に支持し、バックアップしていきます。お力になれる事が有りましたら遠慮無く言って下さい』 今日、古泉に会った時に言う第一声は決まっていた。それはつまり「プライバシ侵害で訴えるぞ」だ。 あの超能力野郎、マジふざけんな。 で、もう一通は言わなくても分かると思うがハルヒからだ。受信時刻は日付が変わって午前一時過ぎ。アイツ、今日は絶対に寝不足だな。 少女が夜更かしをした責任の一端を担っているのは誰でもない俺自身であり、そこに罪悪感が無いかと言えばそりゃ勿論有るに決まっている。 今日一日くらいは睡眠学習を敢行するハルヒを起こさないように努める、くらいしか俺に出来ることは無さそうだが、ま、それくらいはやってやろう。お詫びとしちゃいささか地味過ぎるのは……こういうのは心が大事なんだ。 さて、皆様注目であろうそのメールの本文であるが、勿体振るのすら馬鹿らしい。古泉からのメールをも越えて簡素極まりない内容だった。 『分かった』 ……四文字って。 ……四文字ってどうなんだよ、お前。人として。女子高生として。 どこまでも深読み出来そうな文章であり、果たしてこれを文章と呼んでいいのかすらから俺にはもう怪しいのではあるが、しかしまた短過ぎて深く掘る以前にスコップの先が入らなかった。 作者の感情を読み取るどころの騒ぎではない。要旨を抜き出すにしろ、これ以上どこを削れというのか。現国の授業はここに来てその応用範囲の狭さを露呈したことになる。まあ、高校の授業がこれからにどう役に立ってくるのか、俺としては常日頃からの疑問で……と、話が逸れたな。 それにしたって、このメールを俺はどのように受け止めればいいのだろうか? まるで意図が読めんのだが。 面倒くさかったのか。はたまた、まだご立腹を継続させていらっしゃるのか。……多分、ハルヒ的にはどっちかだろう。もしかしたら万が一にでもあっさりと機嫌を直しているんじゃないか、って希望的な可能性はこれで塵と消えたことになる。 根に持つヤツだとは別段思ってはいない。むしろ陰険って言葉がこれほど避けて通る相手も珍しいくらいのヤツなのであるが、それにしたって退部を告げた相手をそう簡単に許せるはずもないのは俺にだって心情的に理解出来る。 ああ、学校へと向かう足取りも重い。こんな日に限って空は俺を嘲笑うように久々の晴天。憎々しいと思ってしまうのは俺が捻くれ者だからなのか? 自覚が無い訳じゃないけどさ。 それでも、電車は事故も無く順風満帆の定期運行、地獄の上り坂も氷が張っている素振りは無し。俺の登校を阻むものは何も無いのだから、当然足を止めない限り教室前まで辿り着けてしまう。 そして戸の前で最後の一歩を躊躇した。 ここまで来ていながら揺らいでしまう程度の覚悟なら、最初から自主休校しておくべきだったんだよなあと考えても後の祭り。 「今度は僕を逃げ場にする気かい?」。なーんて佐々木の声が脳内で追再生される。ああ、分かった分かった。分かりましたよ。逃げ腰じゃ何も始まらない。前を向かなきゃ進めない。 せめて風当たりが少しでも弱まるようにと心の中でハルヒ大明神へ割と本気で祈りつつ、俺は合戦場への最後の一歩を踏み出したのだった。 ……俺はどうも勘違いをしていたらしい。 いや、思い違いだろうか。 涼宮ハルヒという少女の特異性。 出会って間もない頃の話だ。宇宙人、未来人、超能力者を探している理由を俺が尋ねた時、ソイツはなんて答えたか。俺はよく覚えている。人間とはここまでシンプルになれるものなのかと、内心深く感動したものだった。 「その方が」 シンプルとは決して貶し言葉ではない。その後に続くのは「イズベスト」が定型句。 「その方が面白いじゃない!!」 好奇心と書いてハルヒズムとルビを振ったところで、間違いではないくらい。 少女は常日頃から面白いことに飢えている。 てっきりハルヒは俺と眼を合わさないように顔を外に向けて机に突っ伏し、寝た振りをしているものだとばかり思っていた。もしくは俺との接触を極力断とうとしてチャイムぎりぎりに登校してくるんじゃないかと。 そんな場合における俺の身の振り方を登校中の脳味噌で繰り返していた訳なのだが。 冗談じゃない。 すっかり忘れていた。ハルヒ相手にシミュレーションなんてものが通じた事が一度でも有っただろうか。経験則に裏打ちされた鋼鉄製の「ノー」の文字。俺の卑小な脳味噌などでアイツが収まり切るはずもないのだ。 なぜそんな簡単な事をまるっと忘れてやがったんだよ、俺。 ああ、それは。いつか見た。久々に見た。 至極ご満悦な悪代官を思わせる笑みをその端正な顔に勿体無くも浮かべて、身体は廊下を向けて椅子に横座り。右肘を背凭れに寛げて足を組み、これで左手でワイングラスでも転がしてりゃ完璧だ。 その顔には透明な墨汁でデカデカと「待っていたわ」なーんて書かれていた。 何をする気なのか。何をやらされるのか。ペナルティ? 罰ゲーム? そんなプラス要素の欠片も見当たらない言葉ばかりがぐるぐると頭上を衛星軌道で周回する。まだ一言だって口を聞いちゃいない。ハルヒは俺の姿を認めるとニンマリ微笑んだだけなのだ。 だってのに。俺は恐れおののいていた。あの顔をしたハルヒはロクな事を言い出したためしが無い。今度は何を思いついた? ああ、今すぐ詰め寄って白状させてやりたい衝動に駆られる。いや、違う。逆だ。出来れば聞きたくない。聞かなかった振りをしてやり過ごしたい!! 一歩、二歩。断崖絶壁、自殺の名所に近付いていく心持ちだった感は否めない。しかしながら俺の席はその先端にぶら下がっているのだ。退路は無い。やっぱ今日ばっかりは自主休校しておくべきだったか。第六感はきちんと警鐘を鳴らしてくれていたというのに、俺ってヤツは。 男の子としてのなけなしのプライドは、貫いた場合大抵悪い方向にしか導いてくれない。これも経験則。 ……足、震えてないよな。 登校時の心臓破りの坂が可愛く思えるほどにその五メートルは茨の道だった。途中「用件を思い出した」とか言って回れ右をしようと二回くらい思ったのは、ひとえにハルヒの眼力が原因だ。 銀河系をまるごと詰め込んだようなアーモンド型の大きな瞳は、狙った獲物を逃がさない。確か北欧辺りの神話に一睨みしただけで敵を殺せる神様だか悪魔だかが居たはずだ。バタールとかバザールとかそんな名前の。 涼宮ハルヒは恐らくソイツの化身であろう。そうに決まっている。蛇に睨まれた蛙の慣用句と俎上の鯉が同時に俺の脳裏を過ぎったのは冗談にしても笑えない。 ラスボス目前、七十二センチで立ち止まる。ビビって声が出ないなんて情けない真似だけはしないように大きく息を吸い込んだ。 「おはよう」 しまった。第一声はメールと同じく謝罪から始めるはずだったのをすっかり忘れていた。それもこれもあれもどれも、全部ハルヒのチェシャ猫笑いが原因で、それによって調子を狂わされているのは分かっているのだが、どうにも身体のコントロールが上手く司令部に戻ってこない。 「ああ、おはよ。遅かったじゃない、キョン」 いつもと変わらぬ……いや、鼻歌でも今にも聞こえてきそうにいつにも増して上機嫌なハルヒは、ハッキリ言おう、気味が悪い。だってそうだろ? 俺は昨日、コイツと喧嘩したばっかりなんだぜ? そりゃ後になってメールで謝ったりもしたが、それにしたってこの対応は俺の常識じゃ有り得ない。常識で語れないから涼宮ハルヒ? かも知れん。 ああ、忘れていた。なんかいつの間にやら「理解した」気になっていたが、「どうかしてた」の間違いだ。 コイツは――それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ。 ハルヒの前を行過ぎて自分の席へ向かおうとする。なぜだ? なぜ、ここでさらりと昨日は悪かったの一言が出て来ないんだ、俺! こんな事じゃ昨日の二の舞だろ! そんなの当然分かってる。分かってんのに身体が勝手にハルヒへ背を向ける。口が上手く動かない。 俺から切り出した精一杯の挨拶は、けれど二の句を継げやしない。だれだ、挨拶は人間関係の潤滑油だなんて言い出したのは。ピリオドになっちまってるこの状況に対して俺は謝罪と賠償を要求するぞ。 そんな俺の煩悶を知ってか知らずか。 不意に背中に声が振った。 「昨日は……その、悪かったわね。上に立つ者として配慮に欠ける言い方だったわ。一応、反省してる」 「……は?」 それは余りに衝撃的で。ああ、憎々しい青空はこの霹靂のための前振りだったんだろうなあ、なんて咄嗟にそんな、トビキリどーでもいいことを考えちまうくらいに俺は驚いて。 「は、じゃないわよ。悪かったって謝ってんだから……こっち向いてなんとか言いなさいよ」 火中のトウモロコシが爆ぜるみたいに俺は座ったまま振り向いて、ああ、こういうのは勢いだ。勢いで割と人生なんとかなっちまうって、これはハルヒから教えて貰ったんだけどな。 「お、俺も!」 ハルヒの机に両手を付いて頭を下げ……ようとしたんだが、どうにもそこまでは踏み切れないのはこれもまた「オトコノコ」とやらが邪魔しているのか。きっと、そうだろう。 窓の外、晴れ渡る空に明後日を見ながら、なんとかかんとか言葉を紡いだ。 「俺も、昨日は悪かった。その、メールにも書いたんだがどうも最近……」 「ストップ」 のべつ幕無し、捲くし立てようとした俺だったがそれはハルヒの右手によって阻まれた。その手には一枚の紙切れが握られている。 「その話は放課後、ゆっくりと聞かせて貰うつもりだから。とりあえず、キョン。アンタは放課後までにコレを書いておきなさい」 少女がひらひらとこれ見よがしに揺らす紙には「進路調査票」と手書きで書かれていた。 ……進路調査票? えっと、進路調査票って「あの」進路調査票? それなら俺、一月くらい前に書いたんだが……いや、待て。そうじゃないだろ。そうじゃなくて、まずはきちんと謝ってからだな。 「あ、そういうメンドいのはもういいから」 「いいのかよ!」 「だってお互い悪かったって思ってんなら、もう引っ張るだけ尺の無駄よ」 尺とか言うな。せめて時間の無駄と言え。 「意味、同じじゃない」 「耳当たりが違う」 ハルヒは細かい男ねと俺をねめつけた。が、なんてーか、そのいつも通りな視線が今日はなんだか心地良かった。一応俺の名誉の為に付け加えておくが、俺は同年代の女子に罵倒されて喜ぶような特殊な趣味は持っていないので誤解しないように。 「ところでハルヒ」 「何よ。話なら放課後って言ってるでしょ。有希と古泉くんには今日は部活無いってメールしてあるからゆっくり愚痴でも相談でも聞いてあげるわ」 ええい、胸を張るな。朝比奈さんとまではいかなくとも「そこそこ」の持ち主であるお前がそんなポーズを取ると、健全な思春期男子である俺としては眼のやり場に困るんだ。きょろきょろと視線を彷徨わせる挙動不審のレッテルは欲しくない。 「ああ、それは助かる。確かにあまり吹聴したい内容でもないしな」 朝比奈さんに連絡してないのは……まあ、いいか。彼女ならどうせ今日も鶴屋さんと一緒に自習室で受験勉強だろう。 「そうじゃなくて、コレ。進路調査票って書いてあるが、学校で配布されてるのと形式が違うからな。書き方を聞いておきたい」 普通なら第一から第三志望までを書く欄が有って、っつーかそれしか無いのだが。ハルヒから渡された紙には志望なんて字は一つも書かれていなかった。 代わりに、「短期目標」「中期目標」「長期目標」の三つを書き込む欄が設けられている。なんだ、これ? 俺は別にどこの中小企業の経営者でもない、そんじょそこらのただの学生なんだが。 「アンタねえ……少しは頭使いなさい。もし仮に第一志望から第三志望を書けって言われて、アンタはなんて書くのよ。どうせ適当に知ってる大学の中で『これなら高望みって言われないかな』ってヤツを選んで書くだけでしょ? そんなモンに蚊ほどの意味も無いわ」 一寸の虫にも五分のなんとか。これまで教師が行ってきた受験生へのアンケートの意義を平手でぴしゃりと打ち落としたのは、やはりその豪腕であった。合掌。 「もしくは、そうね。『進学』『就職』『結婚』とでも書いておく? そんな漠然とした内容を見せられても査定するこっちとしては評価のしようがないけど。ああ、この子は就職が進学より上に来るんだー、とかその程度の理解じゃ人を教え導くなんて夢のまた夢よ」 いつもながら、ハルヒの言う事には妙に説得力が有る。まあな、なんて適当に相槌を打つと少女は眼に見えて生き生きとその眼を輝かせた。 「やっぱアンタもそう思う? 大抵、こういった問題点は進学先や就職先を具体的に書くことで解決になっちゃうんだけどね。でも、それは教師の都合だと思わない? 進路なんて現時点では考えられもしない子だって居るのに期限決めて無理矢理に書かせて、それで教師は納得しちゃう」 あー、確かに。なんか俺の知らないところでこの人勝手に俺の進路考えてんなー、って思った事は有る。岡部には悪いが、でも思っちまったモンはもう覆せないわけで。 「気持ちは分かるのよ。願書出す辺りで自分の学力に見合った大学に行けば良いやーって。就職組なら教師が探してきた中から選ぶだけだから、尚更夢の無い話よね」 「……現実を突きつけられるってのは、正直胃が痛いな」 それでも、言っている事は文句の付けようがない。日ごろ、ともすれば不思議ちゃんのカテゴリに属しかねないハルヒの口から、まさかこんな話が聞けるとは思ってもみなかった俺である。 こうして話してみれば、俺よりもよっぽど地に足を付けている印象さえハルヒに抱いてしまう。そう言えば古泉がハルヒは常識人だとか言っていたが、アレは本当だったのか。 なんだ、こう……「凄いな」と。そう思ってしまった。 「だから、そんな茫洋としたものは要らないの。とりあえずアンタは」 目標。だからこその、進路調査票。 「これから一ヶ月の目標、半年の目標、卒業までの目標をここに書いておきなさい。良いわね?」 この紙は、涼宮ハルヒのなけなしの優しさなのかも知れない。 ホームルームの鐘が鳴り、生徒達が自分の机に帰っていくのを見てハルヒは外を向いた。続きは放課後って意思表示なのだろう。俺としてはまだまだ聞いておきたい事も有ったのだが、教壇に立った岡部に睨まれたくもなかったために渋々ながら前を向いた。 無用な注目は欲するところではない。ハルヒの真似事は一般生徒には荷が勝ち過ぎる話だ。 それにしても――意外だった。意外性ってのは涼宮ハルヒという少女を構成するなくてはならない要素の一つと言い切ってしまえるのは確かであるが、しかし今回は方向性がいつもとは真逆であり……面食らったって表現がともすれば一番的を射た表現だったりするのか? 担任の岡部が日常の枠からはみ出さない当たり障りプラス面白みに欠ける話を始めるも、正直そんなのは右から左である。今考えるべきはハルヒの心境、ひいては俺自身の進路だって事はよーく分かっている。 反省、と背後のクラスメイトは言った。これがまず衝撃的かつ劇的な変化であることは違いない。涼宮ハルヒを多少なりと知っている人ならば何かの言葉を聞き間違えたかと、自分の聴覚を訝しむであろう。失礼な話だな、まったく。 成長。 昨日の俺はそれがハルヒに見られなかったことに軽く絶望していた。現実とハルヒが共に歩み寄る未来は俺の独りよがりな儚い希望でしかなかったと勝手に思い込んでSOS団での活動が途端に空しくなってしまった。 ――だが、違った。 涼宮ハルヒは確実に、着実に進歩していた。良い方向へと歩き続けていた。今のハルヒは自分が悪いと気付けたのならばちゃんと謝る事が出来る。それがたとえ一日遅れであってもだ。手遅れでさえ無ければいい。 そうさ、俺たちの一年半が少女の中にしっかりと芽吹いている。何も無駄では無かった。 ハルヒは大丈夫。大丈夫じゃない時も、ソイツの世界を大いに盛り上げるヤツらが居る。 とすれば、後は俺の問題ばかり……って、あれ? ハルヒの心配をしてる場合じゃ実際無い……よな。そんな余裕が有るようにはどれだけ楽観的な視点を用いようとも見えちゃこない。自分で言ってて悲しくなるね。 ここが年貢の納め時、とでも言っとくか? いや、こういう時の俺の常套句は決まってる。腹を括って、息吸い込んで。苦悩を、なるようにならない現実を、吐き出す呼気にありったけ搭載して。 「はあ……やれやれ」 後ろ向きを自分の中から追い出すように。さて、そんなら他の誰でもない俺の未来と、そろそろ真面目に面と向かってみようじゃないか。脳内で展開されるどうにも冴えない未来予想図をポスターカラで塗り潰して。 バラ色なんて単色や、 虹色なんて七色じゃてんで足りない、 二百五十六色や三万二千色すら越えて無限に広がるフルカラの。 そんなクリアでビビッドな未来を夢見ても、一度くらいは良いんじゃないかって思うんだよな。これもハルヒの影響か。多分、きっとそうだ。 でも、きっと良い影響。 でも、きっとそれで正解だと俺の心は囁いた。 決意を新たに望んだ一限の授業はいつもならば欠伸を片手に睡魔とよろしく仲良くする古文だった。「新たに」って言った初っ端に出鼻を挫かれるような「古文」は確かに俺の苦手な教科の一つで、英語と並んで学習意欲への攻撃力が高い難敵である。 「社会に出て何に使えるんだ、こんなモン」。 きっと誰もが思ってる――そんな風に一人思い込んでいた。 きっとこんな風に思ってるのは俺だけじゃない――そんな考えを免罪符にしてきた。 勉強をするのは俺で、なら勉強する内容は俺自身が決める。他の誰かが決めることじゃない。押し付けられるのは勘弁だ。 なんて、そんな浅はかな胸の内は全部佐々木にはバレバレだった。中学の頃にそんな話をした覚えもないのにだ。身近なテレパシストが俺に言った台詞を思い出す。 「役に立つんじゃない。色付けるのさ」。 反芻して前を見る。 「食物が血肉になるように、知識は君の外側を豊かにする。身体が大きくなれば出来ることが増えるように、見えなかったものが見えてくれば出来ることは当然増える」。 黒板に書かれている文字。教師が口にするハイエンド死語の数々。散っていった価値観。今でもまた共感出来る精神。それを今まで不要を割り切って「眺めて」いた俺。 「言葉は人類最大の発明の一つだ。その価値を今更君相手に語る必要が有るかい?」。 だけど、今日は網膜に映すだけで終わらせるつもりはない。それでは何も変わらない。相手はツールだ。言葉は道具だ。キングオブツールズとの呼び声高い「コミュニケーションツール」。 「ならば、さ。それが日常生活に応用出来ない道理が無い事まで分かるよね」。 佐々木の声を脳内再生しながら「見つめ」た、チョークで刻まれた八百年前の恋の歌は、教師の解説を得て共感を産む。促されて現代語訳を考え……ああ、これは告白の文句に悩んでいるのと何が違うのだろうか、なんてはたと気付いたらオカしくてたまらなくなった。 同じ事を世界中の高校生がやっているのだと。 後ろの、かつて恋愛は精神病の一種なんてバッサリいった少女だって、口をアヒルみたいに歪ませながらもどう詩的に告白しようか考えていたりするのだと。 なんだろうな。なんて言えば……いいのだろうか。 誤解を恐れずに言うならば俺は今日、初めて自分の意思で勉強をしている気がした。 「言葉は面白いに決まっているさ。ねえ、キョン」。 俺はまだそこまで――「面白い」とまでは割り切れない。ただ、ちょっと楽しみ方の端っこを摘まんだかもなってそんな程度だ。でも、それだけですら劇的で刺激的なビフォーアフタ。眠くないってだけでも驚愕だ。 心の持ちようでガラリと様変わりするのはこれはなんだ? 恋をして世界が色付くなんて使い古しの擦り切れた喩えを持ち出すほど俺も恥知らずじゃないが。それにしたって、おいおい、これは。 ちょっとちょっと、と言っている間に「印刷された紙の束」が「教科書」にメタモルフォーゼ。 俺がいつの間にか失っていた感覚。多分小学生くらいで満たされ切っちまったんだろう旺盛な知識欲は、どこにも家出なんてしちゃいなかった。どころか満たされてなんて全然いなくって。 ソイツはずっと心の中で燻って、火が点くのを今か今かと待っていたんだ。 佐々木大先生は言った。そこに意思が伴えば何一つ、無駄にはならないと。それは俺たちSOS団がてんやわんやの右往左往した一年半が涼宮ハルヒという少女の精神に確かな変化を産んだ事を引き合いに出すまでもないのだろう。 この時間を無駄にしない、そう思って毎日を生きるのは結構苦しいのかも知れない。今日が初日の俺に偉そうな事は何も言えない。それでも。 充実の実感は、そこそこ悪くないものだった。 四限が終わっての昼休み。ハルヒは早々に弁当を持って教室から消えた。恐らく文芸部室でネットサーフィンでもしながら昼食を取るつもりなのだろう。その行動は言外に「放課後まで考える時間を与えてあげる」と俺に告げていた。 無論、俺だって忘れてはいない。進路調査票のことだ。半日を過ぎていまだに白紙の紙切れは、中々、こう……いざ空欄を埋めようにも悩ましいものがあった。 短期目標――一ヶ月の間に何を成す事を俺の目標とすべきか。学校が冬休みに突入する事も考慮すれば年内目標になるだろう。実質二週間とちょい。現実的なことを言えばなんらかの変化を自覚するにしたって短過ぎる感が有った。 「まあ、これは後でもいいか」 紙切れを上着のポケットに入れて立ち上がると近付いて来た国木田に話しかけられた。 「あれ? キョン、どこか行くの? 一緒にお弁当を食べようと思ったんだけど」 「ああ、悪いな。ちょっと呼び出し食らっててさ」 「岡部先生? ……え、でも進路指導はもう全員回ってたよね? 二回目?」 俺は首を振る。 「古泉だ」 「あー……ああ……ああ」 なんだ、その微妙な納得は。俺だってな、出来ればこの寒い中、上着を羽織ってまでテラスに出て行こうとは思わん。アイツからの呼び出しが珍しいから付き合ってやるだけだ。 「行ってらっしゃい」 「おう」 そう、繰り返しになるが古泉から呼び出しってのはかなり珍しい。基本、部活以外ではノータッチであり、しかもそれを徹底している事からノータッチはアイツの信条か何かなのだろうと薄々気付いているのだが。 だからこそ、そのメールに嫌なものを俺は感じて仕方が無かった。 そろそろ何かが起きるんじゃないか、という予感は有った。ハルヒの近くに居ながら最近は穏やかが過ぎたとも思う。エックスディも迫っている。誰かさんが活発になるのならば、このタイミングだ。 宇宙人か、未来人か、超能力者か。 それとも……大本命にして大本営、涼宮ハルヒ。ソイツの振るう豪腕は今度は何を吹き飛ばすつもりなのか。 俺はワクワクしていた。 それがいけない事だと知りながら。 今度は何をやらかしてくれるんだと。 心の底で待ち構えていた。
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9月11日 いつものように朝が訪れる。 朝比奈さん(長門)が言っていた元に戻せるようになる時まであと24時間を切った。 俺は鏡の前で最高の笑顔を作ってみた。 鏡に写る例の古泉スマイルともようやく今日でお別れである。 天候は快晴。 この調子なら今夜の満月はきっと綺麗なことだろう。 俺は軽快なステップで学校へと続く長い坂道を登っていった。 昼休み。 いつものように古泉(俺)の周りに集まる女子の群れ。 当然今日も俺は弁当など用意していない。 だが食いきれないほどの昼食が俺の目の前にある。 なんで古泉がこんなにモテるのかは知らないが、 これは古泉が特定の彼女を作っていないことも原因の1つであろうだろう。 谷口にこの状況を分けてやりたいぜ。 特に何事もなく時間は過ぎていった。 俺は古泉として振舞うことにもうそれほどの苦痛を感じていなかった。 もうこれで最後と思えばこそ最後くらいより古泉らしく演じてみようという気にもなっていたからだ。 放課後──。 部室に委員長を連れていき今日参加するメンバーを待った。 長門(古泉)、朝比奈さん(長門)、鶴屋さんが来て、 最後にハルヒ、俺(朝比奈さん)の後から 谷口、国木田までついてきた。 「す、すいません……どうしても来たいって言ってたので……」 俺(朝比奈さん)がとてもすまなそうに委員長に謝っていた。 「いえいえ、お友達の方もぜひ一緒に来て下さい。 人数が多い方がきっと楽しいでしょうから」 委員長の人の良さには頭が下がる。 「あら、あなたがわたしたちSOS団を今日のパーティーに招待してくれた子? でかしたわ! じゃんじゃんお呼ばれしてあげるわ!」 ハルヒは遠慮というものを知らないのか、 初対面の委員長の頭をなでなでしながら喜んでいた。 「いや~、朝比奈さん今日の制服も素敵ですね。 あ、僕谷口です。いつぞやの野球大会のときのことは覚えていますか? そう、あのとき貴重なホームランを打ったあの谷口です!」 朝比奈さん(長門)は少しだけ谷口の方を向いたが、 何も得るものがないと判断したか、完全無視という選択肢を選んだ。 「ちょっとキョン。 わたしたちはこれから浴衣に着替えるからあんた達は外に出てなさい」 ん……お、おい! 長門(古泉)! お前もまさか一緒に着替えるとかいうんじゃないだろうな! 「あったりまえでしょ。 みんなで着なきゃ着付けるのも難しいんだからね」 そうじゃない……その長門の中身は古泉なんだ…… ハルヒは俺達男供を投げるように追い出した。 「おわーっ! 相変わらずみくるのおっぱいすっごいねぇ~。 こんなに大きくしていったい地球をどうするつもりさ~?」 「……」 「こらー有希! なんでそんな端っこで着替えてるの! もっとこっちで着替えなさいってっば!」 「え、いや……わたしはここでいい……、あ、ダメ。 ちょ、じ、自分でやる……自分でやるから……」 官能的なやりとりが扉の向こうで繰り広げられているのを、 谷口がじっと耳を凝らしながら聞いていた。 俺もひそかに聞き耳を立てていたのは別に男として自然なことだろう。 「じゃーん! どう?」 数分後、浴衣姿でハルヒが登場した。 「とてもお似合いですよ」 別にお世辞ではない。 ハルヒの浴衣はつい先日の夏休みのときの物であった。 鶴屋さんの浴衣もスレンダーな体にピタッと合っていてこれまた絶品である。 委員長の浴衣も質素な色合いでありながらよく持ち主を引き立てている。 いかにも和服美人といった様相でお似合いである。 長門(古泉)の顔がかなりのニヤケ面で固まっている。 さすがの古泉でも応えたか。 この話はあとで詳しく取り調べさせていただこうか。 「月見といったら浴衣よね。 でも月見には餅つきをするウサギさんも欠かせない要素だと思うの」 そう言われて最後に現れた朝比奈さん(長門)だけは なんとバニーガール姿である。 「………」 朝比奈さん(長門)は自分の大きく開いた胸元のあたりがスースーするのを気にしている様子である。 「うおぉぉぉぉ~~!」 谷口の鼻の下がみるみるうちに伸びていった。 「うぅぅ~……」 俺(朝比奈さん)だけが何か言いたそうにしていた。 これから委員長の家まで歩いていくのにその格好はないだろ…… でも……正直たまりません。 それにしてもハルヒが大きな2つの袋を持っているのが気になった。 「涼宮さん、その2つの袋はいったい……? もう片方はさっき着ていた制服でしょうけど」 「ああ、これ? これはね、うっふっふっふ……内緒よ! 気にしないで。 それでは…レッツゴーーー!!」 「お、おー……」 案内された委員長の家はそれはそれはわかりやすいくらいの大金持ちって感じの家であった。 庭は俺ん家が200個くらい入りそうなほどでかく、 広大な池の中には100匹ほどの色とりどりの錦鯉が泳いでいた。 遠くに見える洋風の屋敷もなかなか壮大な雰囲気である。 なるほど、これならパーティー会場にはもってこいといった感じだ。 一瞬たじろぐメンバーたちを尻目に、 ハルヒと鶴屋さんはいかにも自分の家のようにスタスタと中へ入っていった。 なんであなたたちはこんな屋敷に無料で招待されて平気な顔が出来るんだ。 それに呼ばれたのは古泉(俺)だろうが! それを差し置いて入るなっつの。 でっかい洋間に通された俺達ではあったが、 まだ夜までは時間が少しあった。 俺達はゲームをしたり、 パーティー用の食事を作るのを手伝ったりして時を過ごした。 「……そして、こうしてピンポン玉くらいの大きさに丸めるんです」 委員長に習いながらみんなでお月見団子を作ってみたりもした。 ハルヒはごつくてデカいだんごを作り、 朝比奈さん(長門)は完全に均一性の取れたまんまるのおだんごを作った。 俺(朝比奈さん)は小さくてかわいいおだんご。 長門(古泉)は普通のただの丸いおだんご。 鶴屋さんは一つ一つのおだんごをウサギさんやらネコさんやらの形にしていた。 みんなで無計画につくるもんだから 形もバラバラでとんでもない数のおだんごになった。 どうやったら食べ切れるんだろうか。 そして全部の準備が整って、 空に満月が浮かんだのを確認していよいよパーティーが始まった。 庭に置かれた大小のテーブルの上には豪華絢爛、 目を奪わんばかりの食事が所狭しと並べられていた。 「じゃあ、みなさんどうぞごゆっくりご自由にお楽しみください」 委員長の一声と共にいっせいにみんなが料理へと飛びついた。 まず長門(古泉)が手始めとして場を盛り上げると言い出した。 長門(古泉)はコインマジックを披露した。 長テーブルの上にコップを置いてその中にコインを二枚入れる。 その上からさらにコップをかぶせ、上から布で覆いつくす。 長門(古泉)が口元でボソボソと呪文を唱え、 「……物質転送完了」 の声と共に布とコップを1回転させ、布をはずすと…… なんと2つに重ねられたコップの上の段と下の段に1枚ずつのコインが入っている。 コインが一枚上のコップの中へと移動しているのだ。 「すっごーい! 有希って実は超能力者か宇宙人!?」 ハルヒは素直に感動して大きな拍手をしていた。 よくある手品なんだろうが、俺もどういう仕掛けになっているのかわからないのでこれは素直に凄いと思った。 次の手品はスプーンマジックだった。 ハルヒにスプーンを持たせ、その上から布をかぶせる。 また長門(古泉)が口元でボソボソと呪文を唱え、 「……マッガーレ!」 の声と共に布を取るとハルヒの持っていたスプーンが手も触れていないのにくにゃりと曲がっていた。 「すごぉっ!!」 会場にいたみんなが拍手喝さいを長門(古泉)に送った。 俺(朝比奈さん)が手品に使った布を何度も裏返しながら不思議そうな顔をしていた。 谷口と国木田のくだらない即席漫才を聞きながら、 少し落ち着いた場の空気を尻目に朝比奈さん(長門)が俺のそばで問いかけてきた。 「今回の涼宮ハルヒの行動の意味がわからない。 食事を取らなければ人は死んでしまうと聞いている」 昨日までのハルヒのダイエットのことだろう。 「わたしも食事という形でわざわざ栄養を取る必要は無いが、 人間の生活形態にあわせていつも食事をとることにしている。 少なすぎるといけないから体の容量よりも常に多めに取っている。 それなのになぜ涼宮ハルヒはわざわざ食事を制限していたのか」 「ハルヒはな……痩せたかったんだよ」 「だからそれはなぜ? 痩せるということは飢えるということ。 彼女にとって得るものは何も無い。 それに彼女の体型は人種の平均値から見ても痩せ型といえる。 なぜ?」 うーん、なぜって言われてもな。 俺にはわからんよやっぱり。 女心ってやつは。 宇宙人製アンドロイドのお前だっていつかはわかる時がくるさ。 朝比奈さん(長門)の順番が回ってきた。 女の子達は別にやらなくてもいいと言ったが、 「やる」 といって聞かなかったのでやらせてみることにした。 長門(古泉)がさっき手品をやったようにこいつも手品(ズル)でもやるのかと思いきや、 「少し準備する」 といって朝比奈さん(長門)はさきほど自分たちで作ったおだんごを大量に机の上に並べ始めた。 大皿に山と積まれたおだんごの前に座り、 「全部で300個ある。 5分で全て食べきる」 と言ったとたん、だんごを口に入れ始めた。 ひとつずつ着実にではあるが、 掃除機のような物凄い勢いであの朝比奈さん(長門)の小さな口に吸い込まれていく。 俺(朝比奈さん)がそれを見て少し青ざめている。 明日朝比奈さんが体調を崩してなければいいのだが。 見事4分58秒で全て平らげた朝比奈さん(長門)は誇らしげに少しだけうなづいた。 それをみた鶴屋さんはまたなぜか大爆笑していた。 「あっははははっ! み、みくる~~っ! あんたそんなキャラじゃないさ~! 無っ責任だな~! あっははっ! あーっはははーっ!」 どうも鶴屋さんの言動はところどころに意味不明な点がある。 「まだまだお料理はたくさんありますから皆さん遠慮なく召し上がってくださいね」 委員長が庭に置かれた大きなテーブルの上に新たな料理やおだんごを並べに来た。 ハルヒは目の前にうず高く積まれたおだんごの山を見て何か躊躇しているような仕草であった。 俺が少し助け舟を出してやるか。 「涼宮さん。食べた分は動けばいいんです。 明日はスポーツの秋を楽しみましょう。 卓球でもバレーでもサッカーでもアメフトでも受けて立ちますよ」 「言ったわねぇ。古泉くん! その発言にはきちんと責任取ってもらうんだからね! そうね、明日はプロレスなんてどう?」 責任取るのは古泉だからな。 俺はもう知らんぜ、へっへっへ。 ハルヒはおだんごを1つつまんで豪快に一口で飲み込み、 晴れ晴れとしたいつもの笑顔をして親指を立てた。 そして堰を切ったように次々とおだんごへと手を伸ばしていった。 俺も負けじと手を出す。 こういうものは得てして大してうまいものではないのだが、 ハルヒの嬉しそうな表情を見ているだけでなんとなくおいしいような気がしてくる。 ついに俺の宴会芸の順番がやってきた。 俺(朝比奈さん)を連れて前に出る。 演目は昨日決めたばっかりのアレだ。 「えー、彼には朝比奈さんの物まねをやってもらいます。 さあ、どうぞ」 「え、え、う、あ、あの~ふえぇぇ~」 俺(朝比奈さん)がみんなの視線ですっかり赤くなり、 ついにはしゃがみこんでしまった。 それを見てみんながどっと笑う。 特に鶴屋さんは腹を抱えて笑っている。 こういうのは笑いにつられるというものがあるから、 たとえつまらなくても彼女のように大笑いしてくれる人がいると助かる。 いや、それにしても本当にこの俺(朝比奈さん)の物真似は完璧だね。 なんせ本人がやってるんだからな。 それにこうすることによって最近の俺(朝比奈さん)の挙動のおかしかった点の言い訳が成り立つ。 つまり物真似の練習だったといえばいい。 ハルヒはそれを見てニンマリと笑い、 さきほどから気になっていた袋から衣装を取り出して俺(朝比奈さん)に渡して命令した。 「なんとなくこう来るのは予想してたのよね。 キョン! これを着てもーっとみくるちゃんに近づきなさい!」 ハルヒが取り出した衣装。 それは見たことのある形状をしていた。 赤くて小さい布地、網タイツ、蝶ネクタイに、シッポおよびカフス、そしてウサギ耳。 待て待て待て待て待て! どこからどう見てもバニー衣装だ。 おかしい。さっきから朝比奈さん(長門)が赤いバニー衣装を着ているから、 同じタイプのバニーは部室にはないはずだ。 「ああ、これ買ったの。この前の大食い大会の商品券で」 こんなことに使われるとは思いもよらなかった。 ハルヒが右手にデジカメを構えて100Wの笑顔を見せた。 やれやれ。 こういう笑顔のハルヒには逆らえん。 「あ、古泉くんの分もあるからね」 ……はい? 古泉の物真似と関係ねえだろ! それを聞いて長門(古泉)が少し青ざめた表情をしていた。 見ると俺(朝比奈さん)はすでにハルヒに無理やり着替えさせられていた。 大きめのサイズにしてあるといってもそこは女性用だ。 あきらかに胸の部分の布地が足りず、 エロティックがあふれ出ていた。 股間のモッコリも目に余る醜態である。 「さあ! 早く着替えて! なんならあたしが着替えを手伝ってあげようか?」 ウサギ耳を振り回しながらニヤニヤとハルヒが笑った。 その後の展開は言うまでも無いだろう。 バニーガールの衣装を着た古泉(俺)と俺(朝比奈さん)が、 二人仲良く物真似芸を披露しながら周りを爆笑の渦に巻き込んでいた。 恥ずかしさと情けなさで涙が出そうだ。 実際俺(朝比奈さん)のほうはとっくにもう泣きじゃくっている。 その姿がまた朝比奈さんらしくておかしさをかもし出している。 最後に全員で記念撮影し、 俺たちの恥辱は歴史に永遠に刻まれることとなった。 そうこうしているうちに時間が経ち、 お月見パーティーはお開きとなった。 委員長とその家族にお礼を言って俺達は帰路についた。 ハルヒは歩きながら丸く空に浮かぶ満月を見て何か哀愁のようなものを漂わせていた。 こうして黙って上を見上げている仕草を見ると、 なかなかのいい女に見えてくるから不思議だ。 「あたしさぁ……昔、月面にはきっと何か生物がいるって信じてたのよね」 「おや? 今は信じていないんですか? 涼宮さんにしてはずいぶん一般常識的な意見ですね。 よく月にはウサギが住んでいてオモチをついているというじゃありませんか」 ちょっとハルヒをからかってみる。 「何言ってるのよ! 子供じゃないんだからね! 月面に生物がいないことくらいは見ればわかるじゃない」 少しムキになりながらハルヒが反論してきた。 そうか、いくらハルヒでもそのくらいの常識はあるんだな。 「月面じゃあ生き物は生きていけないわ! 空気も水もないからね。 だから月の地面の下じゃないとダメなのよ! あれだけの広さだもの! 月の内部にはきっと何かいるはずよ! 月星人は地底に都市を作ってそこで生活してるのよ。 そしていつか地球を我が物にしようと虎視眈々と狙っているに違いないわ」 前言撤回。とことんバカだこいつは。 だが、ハルヒがそんなことを本気で願っているとそんなことが現実に起こりうるから怖い。 もし、月星人とやらがいたとしても俺たちの目の前に現れるのだけは御免こうむりたい。 ハルヒが家に帰るのを見送って、長門(古泉)が話しかけてきた。 「今日は一度も閉鎖空間は出ませんでしたよ。 どうやら僕たちは最悪の事態を乗り切ったようですね」 そういうと俺にホテルの鍵を渡して長門(古泉)は帰っていった。 今日もこのホテルか。 まあいい。早く疲れを取って寝たい。 駅前の公園前の広場についたとき、 隣にいるのは朝比奈さん(長門)だけとなった。 別れ際に朝比奈さん(長門)に確認した。 「長門、明日のいつぐらいになれば元に戻せるんだったっけ?」 「明日の午前6時12分48秒が来ればわたしの情報操作基礎分野と物質転換分野の能力はほぼ完全に修復する。 わたしたちの体に乗り移った情報と機能を全て元の肉体へ転送する。 それを用いればわたしたちは全てを元に戻すことが出来る」 「ってことは明日起きたら俺は自分の家で目を覚ますってことか。 じゃあ、その時間がきたらすぐに戻しておいてくれよな」 朝比奈さん(長門)は小さくコクリと頷いた。 俺は今日も長門(古泉)指定のビジネスホテルで一夜を過ごした。 今日は楽しかった。 ただ、楽しんでいただけだった気がする。 でもこれでよかったんだろう。 そしてやっと古泉の体とおさらば出来る。 短い間だったがご苦労さん。 二度とこんなことは起きないことを願っているよ。 明日になれば俺は自分の部屋で目覚めることだろう。 そしていつもの俺の生活が待っているのだ。 ───… 「うぅ……」 俺は窓から入る強い日差しで目が覚めた。 ホテルの一室にいた。 手元の時計を見ると時間は午前7時を指していた。 いつもならもう一寝入りするところかもしれないが、 俺はそこに一つの疑問を感じていた。 「おいおい……」 なぜ俺はホテルにいるんだ? 急いで洗面所に行き、鏡の前に立つ。 「長門……どういうことだ」 鏡の中に古泉一樹のしょぼくれた顔があった。 朝比奈さん(長門)が言っていた能力の制限は9月12日の午前6時12分に切れるはずだ。 もうその時間をとっくに過ぎている。 まさか朝比奈さん(長門)がまだ寝ているとかそんなオチじゃあるまいな。 どちらにしてもそろそろ俺たちを元に戻してもらわないと今日という一日が始まってしまうんだが。 朝比奈さん(長門)の携帯に電話したが繋がらない。 いつもならすぐに取るくせに。 もしかしたら長門に何かあったのかもしれない。 嫌な予感が頭の中をよぎる。 このホテルは長門のマンションに程近い。 急いで着替えて長門のマンションへ直行した。 オートロックの扉の前で708号に呼びかける。 すぐにプツッという音がして相手に繋がった。 「………」 「長門! 起きてるのか? どうして俺たちがこのままなんだ?」 「………」 「もうお前の言ってた時間は過ぎただろ? もし忘れてたのならすぐに俺たちを元の体に戻してくれ」 「………」 相変わらず朝比奈さん(長門)からの返事は無い。 まさか……… 「長門……まさか元に戻せなくなったとかいう話は無いよな? あの0.0004%がまさに現実になったとかそんなバカなことをいうわけじゃないよな?」 「………」 しばらく無言の空気が流れたあと、 ついに長門の部屋との通話プツッという音と共に切れた。 それ以降何度長門の部屋の番号を押しても繋がらなかった。 どうなってるんだよ長門! お前のその態度は明らかにそれを肯定してるみたいじゃないか! 昨日の話はなんだったんだ。 こうなったら最終手段だ。……早いな最終手段。 幸い今の時間は朝の通勤に出かける人が少なくない。 すぐにサラリーマンらしき中年男性が扉を開けて出てきた。 まるで互いにここの住人であるかのように軽く会釈し、 閉まりそうになった扉にすばやく足を突っ込みストッパー代わりにした。 俺ももうハルヒのことをとやかく言えないな。 708号室の扉は固く閉ざされていた。 明らかにここにいるくせにインターホンを押しても長門は出てこなかった。 何度も扉にこぶしをドンドンと叩きつける。 「長門! 開けてくれ! いるんだろ!?」 ドアを叩きながら大きく叫ぶ。 そのうちに隣の住人が出てきてこちらをじろじろと見てきた。 こんなことに構ってはいられない。 「長門! 長門!」 こぶしが赤く染まり、少し皮がむけてきたところで ようやくカチャリという音がして小さく扉が開いた。 「……入って」 朝比奈さん(長門)がうつむき加減で俺を部屋の中へと誘導した。 「長門、これはいったいどういうことなんだ? なんで俺がまだ古泉のままなんだ。 お前にしてもそうだ。朝比奈さんになったままじゃないか。 昨日約束しただろ? 時間がきたらすぐに元に戻すって。 本当に俺たちを元に戻すことが出来なくなったのか?」 朝比奈さん(長門)は何も答えず、無言のまま奥の部屋へと進んでいく。 後をついて行きながらも、俺はさっきから目のやり場に困っていた。 朝比奈さん(長門)はなんと昨日の夜と同じバニー姿だった。 しかもきちんとウサギ耳まで頭に乗っけている。 よっぽどこの服を気に入ったのか、 いや、もしかしたらただ単に昨日から着替えていないだけかもしれない。 それもそれでどうかと思うが。 俺はリビングのコタツ机の前に座った。 バニー服の朝比奈さん(長門)は台所から持ってきた急須で茶碗にお茶を注いで俺の前に差し出した。 俺はお茶には手をつけず朝比奈さん(長門)の答えを待った。 しばらくして、朝比奈さん(長門)はゆっくりと話し出した。 「朝比奈みくるから来るエラーの蓄積量については予想される範囲内で収まった。 制限されていたわたしの能力は同期に関するごく一部の能力を除いてほぼ完全に修復した。 わたしたちを元に戻すことは可能」 よかった……。 元に戻ることはできるのだそうだ。 この朝比奈さん(長門)が言うんだからそれは嘘では無いだろう。 だがそれでも元に戻そうとしないのは朝比奈さん(長門)の意思であるのに相違ない。 いったいなぜ? 「元に戻すことは出来る。 ただし、もし元に戻すとこれから先、 わたしの身に起こる異常事態に私自身が対処することが不可能になる」 「異常事態?」 「わたし内部に今膨大なエラーが蓄積された状態になっている。 12月18日にこれらが引き金となって異常動作を引き起こすことが確実となっている」 これから先に起こる自分の異常動作まで知っているのか。 しかも日付まできちんとわかっているらしい。 「わたしのこの異常動作により、あなたは元よりこの世界の全ての事象に多大な影響を及ぼすだろう。 特にあなたは世界でただ一人その時空改変から取り残された者として、 その時空改変の修正を行わなければならない」 俺だけ取り残される時空改変? しかも俺がそれを直さなければいけないというのだから、 全く想像もできない。 長門の力も借りずにどうやってそんな時空改変とやらを行えというのだ。 俺にそんな力は無いぞ。 「それはいったいどんな出来事なんだ?」 「詳しくは説明できない。 その時代のわたしには同期できないので詳細は不明。 説明したところであなたの記憶を消去しなくてはならない。 なぜならこれはこの世界における不可避な規定事項であるから。 たとえ今消去しなくてもいずれ異常動作を引き起こしたわたしにより、 あなたの記憶から消去されるであろう」 長門は人の記憶もあっさりと消したりできる存在だったのか。 相変わらず恐ろしい能力の持ち主だ。 「その異常動作はすでに未来からの情報により知りえていたが、 どのような原因で引き起こされるのかは不明だった。 過去それについての回避行動が、 考えられる全ての原因に対してさまざまな方法で施されていた。 しかしどのような方法を用いてもその異常動作を回避するに至らなかった。 なぜならそもそもその異常動作が引き起こされる可能性すら見つけ出すことが出来なかったから」 つまり長門はだいぶ前から未来との通信で異常動作が起こることに気づいていて、 それではまずいと思い、いろいろと考えてきたわけか。 でも未来でそうなるのならどうやっても同じ結果にしかならないんじゃないのか? 「わたしがこの4日間、能力に制限が設けられていたのも実はこの回避行動の一環。 過去の自分によりそのように制限されていたからであった。 あの9月8日、涼宮ハルヒの力によってこの改変が行われたときに、 9月12日までの4日間朝比奈みくるとなって過ごさなければならないように、 自動的に能力を制限するよう時限プログラムが施されていた。 先ほど制限の解除と共にその記憶が蘇った」 なんだって? 長門は自分の力を自分で制限していたというのか。 「朝比奈みくるの姿になることで蓄積されるエラーの中に、 異常動作を回避する可能性を見出していたから。 そして今一つの結論を得るに至った。 いまのわたしはこの朝比奈みくるの姿のままであれば、 蓄積されたエラーが引き金となって異常動作を起こしたくても起こせない。 情報統合思念体との同期による連絡が直接できないというこの状態では、 わたしの能力に限界があるから」 朝比奈さん(長門)は俺から視線を離さずまっすぐと前を向いて話し続けた。 「だがわたしはこの体において能力の制限を受けていたことによって、 逆に本来持つべきではない知識を得た。 それは情報統合思念体より独立することによる可能性。 それによって逆にこれから先のわたしの異常動作はほぼ確実なものとなった。 なぜならわたしは情報統合思念体より独立して行動を起こし、 世界を改変する方法を発見してしまったから。 つまり、今回の騒動こそがわたしの中に積み重ねられていたエラーの引き金となって、 12月18日の異常動作を引き起こすに至る直接的な原因となった。 そしていまが最後の分岐点に来ていることに気づいた」 つまりその12月18日の異常動作を避けようとして逆にそれが避けられなくなったって訳か。 まるで急に道路に飛び出してきて車の目の前で動かなくなるネコのような間の抜けた話だ。 「だが朝比奈みくるによりもたらされた影響により、 わたしの決断がどちらを選んでいいものか揺らいでいる。 世界を元に戻すべきか、それとも元に戻さず12月18日のエラーを回避するべきか」 「なあ、長門……。 朝比奈から受けたその影響ってのは具体的にどんなものなんだ?」 「……朝比奈みくるの中に内存する、 異性としてのあなたに対する気持ち」 一瞬頭の中が凍りついた。 朝比奈さんが俺をいったいどんな気持ちで見ているか知らないが、 あの冷静な長門がここまで混乱を覚えるほどの気持ちを俺に対して抱いているというのだろうか。 しかもその中に異性として俺を意識している部分があると……。 これは非常に気になるところだ。 「あなたに選んで欲しい。 危険を犯してもこの世界を完全に元の姿に戻すか、 あるいはこのままにしてわたしの異常事態を回避するか」 朝比奈さん(長門)が俺に何かを委ねるような視線を送ってくる。 「長門……そんなもの迷うことは無いんだ。 俺や古泉や朝比奈さんは自分の体を持って生きてきた人間なんだ。 長門にはあまり人間体に対する執着はそんなに無いかもしれないが、 俺たちは自分の体というものを持っているんだ。 それは俺たち人間にとっては唯一のものなんだ」 「あなたはこの異常動作の危険性がどれほどのものか知らない。 あなたはその事態に陥ったとききっと後悔……」 「長門!」 俺は朝比奈さん(長門)の言葉をさえぎった。 「お前の言い分はわかった。 でも俺は本当の自分に戻りたいんだ。 朝比奈さんの体だってお前のものじゃない。 古泉だってそうだ。 お前や俺の一存で勝手に決めていいことではないんだ。 それにお前がどんな異常動作を起こすのかは知らないが、 規定事項だってわかっているなら元に戻すしかないじゃないか。 どうせ避けられない事態なんだろ? それはわかっていることじゃないか。 任せとけ。 そのときが来たら俺がなんとかしてやる。 異常動作? 世界改変? なんでもこいだ。 俺が一人で背負わなければならないならその運命さえも背負ってやる」 でもそれは違うんじゃないか? お前は言い訳してるんじゃないのか? 本当はお前は元の姿に戻りたくないんじゃないか? 朝比奈さんの姿が実は相当気に入ってしまったとか言うんじゃないだろうな。 朝比奈さん(長門)は頭の上に乗せたウサギの耳を指でつまんでまた離した。 ピョコンとウサギ耳が頭の上でかわいく揺れる。 「……わからない。 でもわたし個人は元の自分の容姿に戻りたく思っていない」 やっと長門が少し素直な一面を見せた。 自分個人の意見を長門は許されていないのだろうか。 こうやって会話して意思の疎通をするのが本当に疲れる。 「なんでそんなふうに思うんだ……? お前だって自分の体に戻りたかったはずじゃないのか? その体ではいろいろと不便は無いのか?」 一瞬朝比奈さん(長門)の目線が俺の方を向き、 また俺から目線を離してうつむきながら答えた。 「あなたがこの朝比奈みくるの容姿を好んでいるから」 な……なんだって? 俺が朝比奈さんのことが好きだから朝比奈さん(長門)は元に戻りたくないという。 それってつまり……つまり…… この朝比奈さん(長門)は俺に好まれたいと望んでいるわけで…… ……これってある意味遠まわしな告白ってやつか? 俺はこの朝比奈さん(長門)から朝比奈さんと長門、一度に二人分の告白を受けてしまった。 「長門……」 なぜか俺は朝比奈さん(長門)の顔が見れなくなっていた。 だからといって違うところに目をやろうとすると 朝比奈さん(長門)の大きく開いた胸元やふとももに目が奪われそうになる。 「えっと……なんだ。 そ、その……長門にはあのいつもの長門の姿の方が似合うんだよ。 読書好きな寡黙な少女っていう子ならあの姿の方が自然なんだ。 俺はあの長門の方が……そうだな…… わ、わりと好みなんだよ。うん! 俺は断然あっちの方の長門を推すぜ!」 精一杯の言い訳に聞こえるかもしれない。 実際俺は長門の意外な告白にかなり戸惑っていた。 たしかに俺は朝比奈さんのことが好きといえば好きかもしれない。 でも長門のことだって、ハルヒのことだって好きといえば好きなんだ。 あくまでLOVEという意味ではなくLIKEと言う意味でここは考えている。 ああ、俺はいつまでも優柔不断でこんなときになんと答えたらいいかよくわからないバカ男なんだ。 自分の本当の気持ちには気づいているくせにとことん正直になれないんだよ、俺ってヤツは。 長門がうなづいて少しだけ残念そうに答えた。 「そう。 わかった……元に戻す。 しかし、この会話記憶は全て消去する」 「え……!?ちょ…」 長門の声が微かに聞こえたかと思った瞬間、 気づくと俺はベッドの上にいた。 目の前にはよく見慣れた天井。 近くの壁に貼られたポスターは俺が張ったものだ。 そこは俺の部屋だった。 さっきまで俺は長門の部屋にいたような気がするが気のせいだったのだろうか。 起きる寸前朝比奈さん(長門)の声が聞こえたような……。 いや、気のせいだろう。 きっとそんな夢を見ていただけに過ぎない。 現にもう、その夢の内容なんか覚えちゃいないしさ。 今は俺はそんなことより重要なことがあるだろう。 急いで階段を降りて洗面台へと向かう。 眠たそうにハブラシを咥えている妹をどかして、 鏡の正面に立つ。 「ふぇ……ふぉんふんふぉうはひふぁあほ?(キョンくんどうかしたの?)」 ああ、4日ぶりに鏡の中のこの顔に会うことが出来た。 ついにようやく俺は俺の体を取り戻すことができたのだった。 ~~エピローグ~~ 「なあ、あいつらってできてるのか?」 ようやく訪れた俺にとってのいつもの昼休みの時間。 谷口はじーっと2つ隣の席の二人を恨めしそうに横目で見ていた。 後藤と葉山が仲良く1つの机で仲良く弁当を広げていた。 「ああ、あの二人……最近付き合いだしたんだよね。 元々葉山さんは後藤のこと好きだったっみたいだしお似合いのカップルだと思うよ」 そっけなく答えるが、国木田はこういう情報にはやたらと詳しい。 実は谷口以上に男女交際には憧れを抱いているのかもしれない。 それとは対照的に俺たちは男三人で仲良く1つの机を囲んで弁当を食っていた。 昨日までの古泉(俺)のハーレム状態が嘘のようだ。 実際嘘でもなんでもなく今日も古泉はあのハーレムを形成していることだろう。 「はぁ……俺もハーレムとはいかないが、せめてあの二年の朝比奈さんと一緒に弁当を囲んでみたいぜ。 一生に一度でいいからさぁ……」 谷口が弁当の玉子焼きを箸で突き刺して空中でクルクルと回していた。 谷口は知らない。 つい昨日まで、俺の中身がその朝比奈さんであったことを。 よかったな。お前の一生に一度のお願いはもうすでに叶っているぞ。 「ところでキョン。お前は涼宮とは一緒にメシ食ったりしないのか?」 「なんで俺があの女と一緒にメシを食わなきゃならん」 だいいちアイツはほぼ毎日食堂でメシを食う。 俺は弁当組だから一緒に昼飯を食ったことはない。 ……いや、朝比奈さんが俺になった初日に一緒に食堂で食ってたらしいが俺の記憶にはないことだ。 「キョンの俺って一人称……なんだか久しぶりに聞いた気がする。 ここんところずっと女っぽかったのに」 国木田の的確な指摘には何も答えず、 さっさとメシを食い終えた俺は弁当を鞄の中に突っ込み教室を出た。 廊下である人物とすれ違った。 「委員長……」 思わず口に出してしまった。 俺は今もう古泉の姿ではない。 月見パーティーのときに会っているから全くの初対面ではないが、 いきなり声をかけて相手が思い出せるほどの仲とはいえなかった。 「あら。昨日はありがとね」 なぜか頭を下げられる。 俺が何かお礼を言われるようなことをしたのかよくわからない。 むしろこちらこそお礼がしたいところなのだ。 俺は頭を下げてその姿を見送っていた。 食堂にハルヒの姿を見つけた。 ハルヒは大盛りの日替わり定食とカツどんとカレーにざるそばという、 見ているだけで胸焼けのしそうな組み合わせの昼飯をものすごい勢いでかっこんでいる。 「ふぁ、ひょん(キョン)。はんはもほうははふほふ?(あんたも今日は学食?)」 いや、もう食った。 それよりも物を食いながらしゃべるな。汚い。 「なによ。あんたに分けてあげる分は無いわよ」 ああ、そうしてくれ。 ハルヒはあれだけあった目の前の食事を綺麗に平らげて両手を合わせた。 「ふぅ、ごちそうさま」 だがまだ食い足りないのか食堂の券売機の方を見て買い足しに行こうか迷っているようなそぶりである。 本当にこいつがダイエットなんて考えたのか信じられないような様相だ。 「ハルヒ、何事も腹八分がいいと言うだろ」 「じゃあ、もう少し食べてもいいって訳ね」 ハルヒは嬉しそうに笑うと券売機の方へと向かっていった。 まだ八分に到達していないってのか。 やれやれ。 放課後、部室に入ると珍しく古泉が一人で本を読んでいた。 「やあこんにちは。 今回あなたにはだいぶ助けていただきました。 おかげでこうして元の姿を取り戻せました。 心からお礼申し上げますよ」 俺はこの前こいつの体に入っていたんだなぁと、 なぜか懐かしさを感じながらパイプ椅子を組んだ。 「なあ、古泉。長門になってみていつもと一番変わった点は何だった?」 「そうですねえ……スカートがスースーするってことくらいですよ。 せっかくの貴重な体験だったんですけどそれを楽しむような余裕はありませんでしたよ」 ハハッとわざとらしくハニカミながら答えて笑う古泉の姿を見て、 ようやく俺が古泉でなくなったということを実感できた。 「お前になってて感じたんだが、委員長はお前のことが好きなんじゃないか? なんかそんな感じだったが」 「ああ、僕の後ろの席にいるあの子のことですか? まさか……彼女は僕に好意など抱いていませんよ」 「なぜそんなことが言い切れる。 毎日お前の分の弁当を用意してくるし、 わざわざお月見パーティーにまで招待してくれたし、 俺が忘れた宿題だって見せてくれたぞ。 何の好意も持たない人間がこうまでするか」 「もしそう感じたのなら中身を好きになったのかもしれませんよ。フフ……」 んなわけあるか。 初日からあんな態度だったわい。 「じゃあ、彼女はもしかして『機関』の人間か?」 「ほほう……どうしてそんなことを考えるのですか?」 そうでなければおかしいだろう。お前が授業中に呆けていたりするようなキャラだったらわかるが。 「ふふふ、残念ながら違いますよ。彼女は『機関』の人間ではありません。 ですが『機関』とは全くの無関係とは言えないかもしれませんね 『機関』の知り合いの知り合いというだけで莫大な数の人間がその範囲内に入るのですから。 それだけ僕の所属している『機関』は無関係という関係はありえないくらい巨大な包囲網を持っているのですよ 本当のことはこれ以上言えません。でもどうしても知りたいですか?」 どうせ聞いても本当のことは教えてくれないんだろ。だからあえてこれ以上は追求しないよ。 「たとえば……そうですね。こんな風には考えられなくは無いですか? ……昨日の日付は覚えてますか?」 「9月11日だろ」 「それです。その日付がどんな意味のある日であるかはあなたもよくご存知のはずです」 9・11……もしかして……。 数年前、あのアメリカで起こった歴史的出来事の日。 おそらくこれから先の現代史の歴史の教科書には深々とその名が刻まれるであろうあの事件の起こった日が、 偶然にも昨日の日付とぴったりと同じであった。 「その日がたまたま世界最後の日と重なるということも考えられなくはありませんでした。 涼宮さんの考えそうなストーリーですから」 「それで委員長にも協力を要請したってわけか。 そうやって俺をうまくハルヒに誘導させようとした、と」 「いえ、別にそうとは言ってません。 もしかしたらそんな風な考え方もできなくはないのでは?と言いたかっただけなのですよ。 そう簡単に僕が本当のことを言うと思いましたか? どっちにしてもお月見パーティーが今回の解決のきっかけにはなりませんでしたしね」 明らかに関与を認めているようなくせしてきっちり最後にしらばっくれやがった。 まあ、その方が古泉らしくていいだろう。 それにしても、さっきから古泉が読んでいるハードカバーが妙に気になる。 「これですか?いえね、そこの本棚に置いたあったのですが、 読んでみるとこれが意外に面白いんですよ。」 すっと本を持ち上げてタイトルを俺に見せた。 睡眠薬のようなカタカナがゴシック体で踊っていた。 ああ……知っている。 これはSOS団創立当時に長門が俺に読めと渡してきたSF長編だ。 俺も2週間かけてそれを読んだが、 結局のところその本の真髄は全く理解することが出来なかった。 少なくとも高校生にオススメできる本ではないと思う。 「なあ、その本は特にどの辺が面白いんだ?」 古泉はちょっとだけ考えるような仕草をして答えた。 「う~ん、そうですねぇ。よくよく考えると変なお話なんですよね。 文章は説明不足でわかりにくいですし、話の構成も下手ですね。 あとこういうジャンルのお話は、僕はあまり好みとは言えないんですけどね。 でも読んでいると不思議と心が踊るといいますか…… 懐かしい気持ちにさせてくれたりして。 そういえばなんで面白いんでしょうかね。 まあ、しいて一言でいえば……」 またしばらく悩んで一言だけ答えた。 「……ユニーク」 ──数日後。 いつものように文芸部の部室に集まった5人は特にすることもなくただ個人個人の好きな時間を過ごしていた。 朝比奈さんがいつものようにお茶を入れてくれたお茶を飲む。 いつものあの朝比奈さんの味がする。 部室に飾られているハンガーラック。そこには今まで朝比奈さんが着た衣装の数々が並べられている。 そこに新たにブレザーが加わっていた。 そういえばあの入れ替え初日、俺たち四人が長門の家に集まったとき 『機関』が朝比奈さんに渡したブレザーが余っていたのだ。 もしかしたらいつかまた着てみる機会があれば着てみたいという気持ちがどこかにあるのだろうか。 朝比奈さんの方を見つめつつ俺は一つの懸案事項に頭を悩ませていた。 彼女は俺の秘密を知っている。 俺の秘密、それは男の秘密。 ベッドの下のダンボールの底の方に大事に隠されているビデオや本のことだ。 俺が元の体に戻ったその日、 それら全てが姿をくらましている事に気づいてしまった。 もしかしたら親が見つけたのかもしれないが、 うちの親だったらそのことで必ず俺に説教してくるはずだ。 どちらにしても朝比奈さんは俺の秘密を知ってしまったはずだ。 しかし朝比奈さんの素振りはそんなことはまるでなかったかのように俺に接している。 本当に俺のあの宝物を見たのか、それとも知らないのか。 なんとしても真相を知りたいがもちろん朝比奈さんにそんなことを聞くことなど出来ない。 一生朝比奈さんの胸のうちに仕舞っていてくれることを祈る。 「ようやく1キロ減ったわ。なんで体重って全然減らないのかしら」 結局ハルヒのダイエットは完全にやめさせることは出来なかった。 だが俺は一つだけ条件をつけるようにハルヒに約束させたのだ。 それは、隠れてダイエットをしないこと。 もしダイエットをしたいのならみんなで協力して痩せていこうという話だったのだ。 ハルヒも馬鹿正直なところがあるのか、 それとも自分の努力を認めて欲しいのか、 1キロ太っただの痩せただのという話をいちいち俺たちに聞かせてくるようになった。 体重の話題が普通の話題になったおかげで部室内では体重の話はそんなに禁句ではなくなった。 それにしてもいつもあれだけ昼間食っていてよく1キロも痩せるもんだ。 こいつは一日にいったいどれだけのカロリーを消費しているのだろうか。 「みくるちゃんはこの前量ったときは前よりさらに2キロも太ってたのよね。 だからみくるちゃんまであと1キロよ!」 「ちょ、ちょっとなんでバラすんですか~? 絶対言わないって約束したのにぃ~。 それにもうわたしそんなに太ってないです~」 「な、なあんですってー! じゃあ今何キロなのよ! 教えなさい! あ、こら逃げないの! ちょっとキョン! みくるちゃんを抑えて! そこの体重計で量るから!」 「ふぇぇ~ん」 たしかに朝比奈さんが元に戻ったときは少しふっくらしていた。 もちろん本物の朝比奈さんには責任はない。 この前の大食い大会もそうだが、だんご300個の早食いをしたりしたのは長門の仕業なのだ。 それに長門のことだから普段の食事の量だってかなり多めになっていたのではないか? たったの4日で2キロも太るのはなかなか出来ることじゃない。 長門の方を見ると自分のせいじゃないとばかりにひたすらに無言で本を読み耽っていた。 今回の騒動でまた最後は長門の力に頼ってしまったな。 元に戻れたのはお前のおかげだからな。 元に戻せないかもと言われたときはひやひやしたが 結局なんでもなかったみたいだしな。 いや、よかったよかった。 窓の外をみると外の景色が少し赤みを帯びてきていた。 この街にも本格的に秋が訪れようとしていた。 「あれ? おかしいわね。たしかに昨日冷蔵庫に入れたはずなんだけど……」 ハルヒはさきほどから部室の冷蔵庫の中の物を掻き出しながら『あるもの』を探していた。 その『あるもの』は卵、牛乳、砂糖、カラメルなどをたっぷりと含んだ あま~く高カロリーなお菓子である。 「ちょっとぉ、どうしてないのよ! たしかにこの中に置いてたはずなのに!」 ハルヒのこの宝探しは徒労に終わるに違いない。 なんせお前の探しているものは俺の胃の中にある。 ハルヒが手を止めてじろっとこちらを睨んでいる。 むしろ感謝して欲しいぜ。 少しはお前のダイエットに協力してやったんだからな。 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 ──涼宮ハルヒの中秋── ──完──
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キョン 古泉一樹 朝比奈みくる 涼宮ハルヒ 長門有希
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涼宮ハルヒの憂鬱2 2007年12月発売 630円 発売元:株式会社 バンダイ ラインナップ 名前 涼宮ハルヒ(サンタVer.) 長門有希(水着Ver.) 長門有希(水着色違いVer.) 朝比奈みくる(大人Ver.) 朝比奈みくる(禁則事項です♥Ver.) 鶴屋さん 鶴屋さん(笑顔Ver.) その他 名前 コメント
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登録タグ AV どうしてこうなった セクシャル 危険度1 新種の性癖 【警告】アダルト作品の為、検索する際は注意 人気ライトノベル「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズのコスプレをした女優がビニール圧縮されているAV。 ニコニコ動画などで視聴可能。 外国でも窒息プレイはメジャーなようだ。 「ただのAVには興味ありません!」 分類:セクシャル 危険度:1 コメント ハルヒの意味がねぇww -- TKM (2010-12-23 01 34 29) 後半コスプレ衣装脱いじゃうんかいwww -- ななし (2011-01-09 13 39 10) 一緒に入りたい -- 名無しさん (2011-02-19 11 23 06) ニコニコに動画現存してるみたいだな。ていうかニコニコ第百科の記事がWWW -- ギリジン (2011-02-19 13 10 22) ↑大百科見てきましたw これが窒息プレイかぁww -- みつあみ (2011-02-19 19 19 41) かすが -- 名無しさん (2011-04-18 19 13 50) すwwwwwwwwじwwwwwwwww -- こんばんワニ (2011-04-28 00 24 20) なついかしいwwwあいかわらずワロスwwww -- GY (2011-05-26 17 25 01) 誰得wwwwwww -- JK (2011-06-01 15 07 15) ハルヒより長門の方がいい -- フィディオくん (2011-06-01 19 34 23) もうやだこの国 -- TG (2011-06-01 23 53 01) ↑ -- 柚華 (2011-07-03 16 18 57) 同意 -- 柚華 (2011-07-03 16 19 13) 口がおもしろいw -- すたれ (2011-07-03 18 22 34) 圧縮ゥ、圧縮ゥ! -- りんごネス (2011-07-03 21 22 27) 息できなくなって死ぬだろwww -- りょう (2011-07-06 21 49 45) ダーク♂♀おくりびと -- 名無しさん (2011-07-31 18 47 27) 圧縮圧縮ゥ…空気を圧縮ゥ! -- 蒼真 (2011-07-31 19 53 27) zipハルヒwwwでも3次元じゃなあ・・・・ -- 平沢唯は俺の嫁 (2011-09-01 18 33 14) ん~^^可愛くない -- ミク (2011-09-20 15 25 02) 圧縮→圧縮→死亡 -- 名無しさん (2011-10-04 00 29 35) 圧縮する前は可愛いのに・・・。く、口が・・・wwwでも仕方が無いのか。 -- むるむる (2011-10-29 18 14 41) 悪くないね -- 名無しさん (2011-11-09 19 36 22) 酸欠で死ぬだろw -- ランド (2012-01-21 06 18 41) 結構好きな俺がいる。 -- 名無しさん (2012-03-20 22 31 00) 口の所に呼吸用の穴開いてるから窒息死はしない筈。しかし誰得… -- 名無しさん (2012-03-29 01 32 57) きもい -- あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ (2012-04-09 12 06 23) 誰得←どう読むの? -- あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ (2012-04-09 12 07 26) ↑だれとく あと『あ』の連打は荒らしになります。 -- ゆっくリグル (2012-04-09 15 49 19) きもい・・・・・・・・・・。 -- 名無しさん (2012-05-21 13 20 18) ハルヒより鶴屋さんの方がいい -- 名無しさん (2012-05-30 22 32 11) ダーク♂おくりびと・・・いや、なんでもないです -- 名無しさん (2012-07-25 23 02 42) なかったよ。 -- meron! (2012-07-31 21 21 13) それでも人間圧縮は絶対にやめたほうがいいですね。 -- またきた (2012-09-22 09 59 33) 仲咲千春はぽっちゃり可愛い、異論は認めない。 -- 名無しさん (2012-10-08 10 06 20) うわぁぁ、気持ち悪い -- メタルブレード (2012-10-08 10 21 12) 圧縮した結果これだよ! -- 名無しさん (2012-10-14 00 27 39) 誰得?・・・・・・・・・・・俺得だぁぁぁぁぁぁぁぁ!! -- HUNK (2012-10-14 08 44 59) 「ただのAVには興味ありません」 -- ハルヒ (2013-01-10 13 55 35) ↑現にこれをやったのはあんただろ! -- 名無しさん (2013-03-01 17 43 30) 不覚にも、笑ってしまった。 -- るしふぁー (2013-03-02 22 22 01) 涼宮ハルヒ 冷凍 -- 7743 (2013-03-02 22 25 00) ↑ 涼宮ハルヒ 解凍 -- 名無しさん (2013-03-22 01 31 26) 朝比奈派ですー。← -- 奏多 (2013-03-29 00 57 15) 普通に抜けるだろ -- がちきち (2013-04-04 16 43 49) 顔以外ならOK!つか、コメで皆デブ言い過ぎ…可哀想だろ これの拷問版出ないかな… -- 有魔 (2013-04-16 20 46 53) bakadana -- 名無しさん (2013-04-27 15 28 40) ばっかじゃねえの -- 名無しさん (2013-04-27 15 29 10) あるアニメにけし粒にまで圧縮して押しつぶす技があったのを思い出した。 -- イシシ (2013-07-16 14 10 21) スカートとかぴったりしてるww -- KK (2013-08-11 10 27 51) 女優さん…大変だねぇ… -- ずとさん (2013-08-21 10 03 52) ようつべのリアルドラクエの呪文再現にこんなのあったなwww -- あはは (2013-08-24 19 05 27) なぜこんなことしたしwww -- プリンカップ (2013-09-14 15 01 56) 脱ぐのかwwせっかくの衣装wwww -- 餃子 (2013-09-19 08 35 38) 最初は自分もやってみたいと思ったww -- あいざわユウキ (2013-09-21 08 34 46) コスプレを脱いだら意味ないだろぉお! -- 月 (2013-10-11 09 39 12) 見に行こうと思ったけど、動画どこにあるの?w消えてるよwww -- どらちゃん (2013-10-11 14 31 59) 空気を圧縮ゥ! -- 名無しさん (2013-10-11 15 21 38) なんでもあるなニコニコ動画 -- 歌のお母さん (2013-11-11 17 39 46) ↑11 とある魔術の禁書目録? -- 名無しさん (2013-12-06 15 19 06) 検索したほうがいい言葉 ダークおくりびとでも似たようなのある -- こも (2013-12-16 20 39 25) フェチとしては窒息+緊縛みたいな感じ 正確には緊縛ではないが体の自由を奪われた異性というのが重要だろうし -- 名無しさん (2013-12-23 23 32 45) 束縛(物理)の方か -- 歌のお母さん (2014-01-14 22 38 41) 太ももが…(苦笑) -- 有魔 (2014-02-02 08 20 41) アホだろwこれは☆×1でいい気がするw -- 名無しさん (2015-07-20 17 20 35) 顔がきもすぎて、吹いたwwwww -- かめかめ (2015-11-19 16 56 21) 涼宮ハルヒの圧縮www -- 名無しさん (2015-11-29 12 10 39) ゲロゲロゲーやばくて母さん死んだ -- くっちゃん (2016-07-27 11 28 47) ダーク♂おくりびと -- 名無しさん (2017-08-07 20 58 48) 正直おっきした -- 名無しさん (2018-04-04 00 49 50) コスプレAVと圧縮モノそれぞれに需要があるのは分かるんだけど両方同時に楽しみたい人がどれだけいるのか -- 名無しさん (2019-10-23 22 51 48) haruhi.zip -- 名無しさん (2019-11-01 09 24 30) 復活おめでとう -- ショボーン (2023-02-12 12 26 43) 復活おめ -- 赤色 (2023-02-12 12 35 01) 何気にアダルトの危険度1って珍しくない? -- 旧式 (2023-02-12 16 36 45) 普通に危ないでしょ... -- ゲーム太郎 (2023-02-12 16 44 21) 圧縮して何になる...。 -- 霧雨カッキー (2023-02-12 19 56 42) これ生きてるのか? -- イマキヨさん (2023-02-12 21 59 58) 復活おめでとう -- さの (2023-02-13 21 16 14) ヤバいエーブイ -- ひろゆキンTV (2023-05-21 13 35 10) 説明文読んでも訳わかんないの初めてだ -- 名無しさん (2023-09-18 16 12 34) なんだいこれは -- めろん (2023-10-01 13 13 00) なんか、エロいな -- オナキン (2024-03-29 17 16 41) やばー(;゜∇゜)なんか知らんけど顔見て笑ってもうた(笑) -- 草しかはえぬぞ❗ (2024-04-03 20 28 53) 名前 コメント 耐性自慢(「こんなのヨユーw」「俺小6だけど見れたw」など)のコメントはご遠慮下さい (過去そういったことが相次ぎコメント欄停止にまで至ったことがあります)
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「今度の夏合宿は○○県横泉郷(おうせんごう)にいくわよ!」 ハルヒのこの一言により俺達の夏合宿はめでたくミステリーツアーに 決定された。 ここから電車とバスに揺られること数時間、山奥の閑静な村だそうだ。 避暑にはもってこいかもしれないが最近失踪事件が続いており それ系の業界ではミステリースポットとして有名らしい。 なんでわざわざこういう所を選ぶんだろうね、ホント。 「さあ今回の合宿はみんなで真夏の怪談を体験するわよ!」 そう言って目を輝かせるハルヒと対照的に他のメンバーが 浮かない顔をしているのが少しだけ気になった。 その後も準備やら何やらで色々あったが、あっという間に 時間は過ぎ去り今日はいよいよ合宿当日だ。 因みに旅の手配をした古泉が5人分しか部屋を確保できなかった為 今回の合宿はSOS団の面々のみで行う事になっている。 電車を乗り継ぎ、延々と山道を通ってきたバスを降りると そこは正しく夏と呼ぶに相応しい世界だった。 山奥という事で快適な避暑生活を期待したのが むしろこっちの方が暑いかもしれない。 だがそれさえ我慢すれば本当に閑静な所で雄大な自然の中 都会の喧騒を忘れるのには丁度良さそうだった。 途中ですれ違った村の人やこれから泊まるバンガローの オーナーもおおらかでここの土地柄が良く表れていた。 そんな状況なのだから誰しもせわしない日常を忘れゆったりと 過ごそうとするものだが、ここにそうは思わない心の貧しい奴がいた。 もちろんハルヒである。 「何言ってんのよ。早速噂のミステリースポットに行くわよ!」 やれやれ。そのミステリースポットとやらは俺達の泊まるバンガローから 歩いて1時間くらいの所にあるらしい。途中、村の人にも聞いてみたから 間違いないだろう。 炎天下の中、1時間も歩くのは想像以上にきつかったが 俺達はやがて開けた丘に辿り着いた。 丘の上には樹齢千年を超えていそうな大木がそびえ立ち その周りを等身大の石柱が取り囲んでいる。 大木と石柱は注連縄で結ばれており下向きに尖った三角に×印を 重ねたような模様が随所に描かれていた。 「噂じゃこの御神木にいたずらすると祟りに遭って失踪しちゃうらしいわ。 やっぱりここは定番通り落書きかしらね。」 おいおい、どこの小学生だよ俺達は。 「そうですね、ここはもう少し観察されてみてはいかがでしょうか。」 「いたずらは止めた方が良いと思います。祟りは怖いです。」 投げやりに突っ込んだ俺に古泉と朝比奈さんが同調した。 いつもはハルヒの太鼓持ちなのに珍しいな、古泉。 「もうみんな何言ってるのよ。多少のリスクは覚悟しないとこの世の 不思議になんていつまで経っても遭えないわよ!」 そう言ってハルヒは大木をバシっと叩いた。さして力を入れた様にも 見えなかったし、いくらハルヒが馬鹿力だからってそのリアクションは いかがなものかと思うのだが… 次の瞬間いきなり大地が激しくのたうち俺達は地面に打ち付けられていた。 痛てて… どれくらい動けないでいたのか分からないが俺は痛む体を起こして周りを見る。 みんな転んではいるが無事なようだ。 とりあえず一安心したが、俺はすぐ絶句する事になる。 なんとハルヒが叩いた所から大木が縦に裂け…真っ二つに…割れていたのだ!! どうなってんだ、これ。 「えっ!嘘っ、あたしはちょっとはたいただけで…」 珍しく狼狽するハルヒに古泉がフォローを入れた。 「きっと今の地震のせいでしょう。僕達が来ても来なくても こうなっていたと思いますよ。」 そして古泉は額に手を当てて熟考するような素振りを見せてから付け加えた。 「むしろ僕達はここに来なかった。ここに来る前に地震に遭い宿が心配になって 引き返した。そういう事にした方がいいでしょう。」 おいおい、そこまでしなくてもいいんじゃないか? 「僕達が原因ではないのですし、あなたも村人から要らぬ誤解を 受けたくは無いでしょう?」 「そうね、きっとその方がいいわ。せっかくミステリースポットに来たのに 残念だけど、村に引き返しましょう。」 流石に動揺しているのかハルヒはぎこちなくそう言った。 みんな立ち上がって帰ろうとする中、朝比奈さんがまだヘタリ込んでいた。 大丈夫ですか?と呼びかけたが反応が無い。腰でも抜かしてしまったのかと思い 近寄ると朝比奈さんは目を大きく見開いて何かを呟いていた。 声が小さすぎて聞き取れないが一定の動作を繰り返す唇を必死で追う。 「………チ………、 ………チ……タ、 ……レチ……タ、 ……レチ…ッタ、 …ワレチ…ッタ、 え?… 「 ノ ロ ワ レ チ ャ ッ タ、…」 !!!? 「呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、 呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、 呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、呪われちゃった、…」 お、落ち着いて朝比奈さん。今のはたまたま地震が起きただけで 俺達とは無関係ですよ。 俺は彼女をなんとか安心させようとするが朝比奈さんはガクガクと震えながら 声にならない声をただただ繰り返していた。目には涙まで浮かべている。 「ちょっとみくるちゃん、しっかりして!」 ハルヒも駆け寄ってきたが朝比奈さんはまるで気がつかない。 10分くらいは待っただろうか、それでも朝比奈さんの様子は変わらなかった。 「仕方ありませんね、とりあえずあなたと僕で朝比奈さんを支えて戻りましょう。」 「そうね、じゃあキョン、古泉君頼んだわよ。」 もう少し待っても良いだろうにとも思ったが、朝比奈さんが落ち着きそうにないのも 確かなので俺は古泉と共に朝比奈さんを両脇から支えて歩き出した。 結局、朝比奈さんはバンガローに着くまで同じ言葉を繰り返していた。 バンガローの前ではオーナーが俺達の帰りを待ってくれていた。 先程の地震で事故に巻き込まれてないか心配して見に来てくれたらしい。 でも最初は分かったその顔も分かれる時には影に染まってもう識別できなかった。 誰そ彼時とは言うがこんなにも分からなくなるものだろうか。 人間じゃないみたいだ…何故だかわからないが不意にそんな考えが浮かんで消えた。 翌日、昼前にまたオーナーが家で取れたからと野菜を一盛り持ってきてくれた。 ありがたく受け取りお礼を述べる。 「ええよ、ええよ。あんた方はシラハさんなんだからゆっくりしていってーな。」 シラハさん?この地方の方言だろうか? 「ああ、大事なお客さんってところだよ。 それと昨日の地震で崖崩れが起きて、麓への道が埋もれてしまったんよ。 あんた方、明日帰るって言ってたけど3、4日は麓まで行けんみたいなんよ。 もし当てがなければずっとここ使ってええよ。料金も前払いしてもらった分だけで ええから。」 それは有り難い。丁重にお礼を言っておく。 それにしても終始笑みを浮かべて気さくに話してくれているのに その表情は作り物めいていて薄気味悪さを感じてしまうのは何故だろう。 やはり後ろ暗い事があると萎縮してそんな風に感じてしまうのか…? 昨日は流石に大人しかったハルヒだが夜が明けるとすっかり いつものペースに戻っていた。 朝比奈さんは平静を装っていたが時たま黙り込んでは考え事をしている。 確かに昨日の様子は普通じゃなかったしね。 全くハルヒの奴も少しは大人しくなれば良いのに。 だがハルヒの横暴は止まらなかった。その夜はなんと怪談をやろうと 言い出したのだ。おいおい、朝比奈さんの事も考えろよ。 もう少し空気読む事を覚えてくれ。だがハルヒ以上に空気を読めない奴がいた。 「ちょっとここ横泉郷(おうせんごう)について調べてみたんですが 昔は別の名前で呼ばれていた様です。」 古泉だった。勿論ハルヒも興味津々で食いついた。 「へぇ、なんて呼ばれてたの?」 「横泉という字を分解すると、木、黄、泉に分けられます。昔ここは 黄泉山(よもつやま)と呼ばれ恐れられていました。文字通り死者の 住む山と考えられていたようですね。」 「なるほど。でもなんで横泉郷に変わっちゃったの?」 「ある時ここに天の神が降り立ちその身を御神木に変えてこの地を 平定したそうです。以来 木 の神によって平定された 黄泉 という事で 横泉と呼ばれるようになった様ですね。」 「えっ…その御神木ってまさか…」 流石のハルヒも顔を引きつらせる。 「はい、どうやら昨日のあの大木みたいですね。死者の地を平定していた神が 倒れた今この地はどうなってしまうのでしょう…とても興味深いところです。」 アホか。昨日の今日でよくこんな話ができるな。少しは空気を読め。 意外というか幸いだったのはこれを聞いても朝比奈さんが特に怖がらなかった事だが ハルヒといい古泉といいなんとかならんのかね、ホント。 古泉以外にネタを持っている人間が居なかったし、古泉の話で一気に クールダウンした為、怪談はそのままお開きになった。 バンガローには部屋が2つあるだけだったので、俺と古泉、女子3人で それぞれ1部屋という部屋分けになっている。 「あの話を敢えてしたのはあなたと涼宮さんに現状を知って欲しかったからですよ。」 部屋に戻ると古泉はそう切り出した。 おいおい、あの電波話が本当だと言うんじゃないだろうな? だが古泉は何も答えず両手をすくめただけだった。 …何が言いたいんだ、全くわからんぞ。 次の日もハルヒが虫取りをすると言って俺達は山の中を駆け回った。 全くどこからその元気は湧いてくるんだろうね。 夕方、晩飯までのしばしの間、俺はバンガローの窓辺で涼を取っていた。 だが蒸せるような暑さはいかんともし難く、間近に迫った山々から聞こえる セミ達の大合唱に意識は朦朧としていく。 まどろむ内に、どこからともなく子供達の歌が聞こえてきた。 「いたずらな わるいこは しらはのやがたてられる うそをつく わるいこは しらはのやがたてられる あやまらぬ わるいこは しらはのやがたてられる しらは さん しらは さん むらじゅう みんなに おいかけられる てんじんさまの そなえもの」 なんだ?何か引っかかる…しらはさん?この呼び名どこかで… …………………………………… ………………………… ……………… …… !!!!! そうだ、昨日オーナーが来た時確かに俺に向かって シラハさん と言っていた。 でもそれはただのお客って意味だって… なのに村中に追いかけられるってなんだよ!!! 確かにハルヒの奴は大木にいたずらをしようとしてた。 でも実際は何もしないうちに地震で大木は裂けてしまったじゃないか!! 別に俺達が嘘をついたわけじゃない… 謝る必要だって…無い筈だ!!! …いや単なる偶然だろう。昔の呼び名が変わり変わって使われる事だってあるさ。 そうさ、そうに…決まってる! ……… そう考えて何の気なしに、本当に何の気なしに窓の上を見上げて俺は戦慄した!!! そこには…刺さっていた… 装飾にしては余りにもおかしな突起物。 真っ白い羽根がバンガローの壁から生えていた… いや違う!壁に白羽の矢が突き刺さっていたのだ!!しかも2本!!! 慌てて隣のハルヒ達の部屋の壁も見てみる。 そこにもあった… 白羽の矢が… 3本…同じように壁から生えていたのだ!!! 俺は体調が悪いからと晩飯も早々に切り上げて部屋の布団に潜り込んだ。 とにかく今は寝よう。十分休息を取れば考えだってまとまるさ。 だが夢の中でも俺に平穏は訪れなかった… 誰かが呼んでる気がした。この声は………長…門? 「逃げて。」 長門!!?? おかしな話だが夢の中で俺は目覚めた。逃げろってどういう事だ? 「私ではダメだった。あなた達を守りきれなかった。だから…逃げて。」 ダメだったってどういう事だ!? 「もう時間がない…お願い、逃げて。」 おい、どういう事なんだ、長門!!闇に向かって呼びかけるが 長門の存在がどんどん希薄になっていくような錯覚に囚われる。 「また図書館に…」 前にも聞いたこの言葉。そうだ…あの時だって絶望的な状況だった。 だが俺達は無事帰ってきた!!なら…今回だって!!!! だが長門の言葉はこれだけでは終わらなかった。 「… … … …………………………………………いきたかった…」 っ!!!!!!???????!!!!!!! おい、長門。行きたかったってなんだよ!もう次が無いみたいな言い方は!! そんなのお前らしくないぞ!!! 俺は跳ね起きた。寝汗で体中ベトベトだったが今はそんな事はどうでもいい!!! 長門!!!!!無事でいてくれ!!!!俺は一目散に隣の部屋に向かっていた… 長門!!居たらここを開けてくれ!!長門!!! 俺は隣部屋の扉を乱暴に叩きつけながら声を張り上げた。 頼む…無事でいてくれ!! 「うっさいわね、今何時だと思ってんのよ。」 怒鳴り続けているとハルヒが不機嫌そうに答え、扉を開けた。 ハルヒ、長門は無事か!? 俺はすぐさま扉を押しのけハルヒ達の部屋に入る。 「ちょ、勝手に乙女の部屋に入らないでよね!」 緊急事態なんだ。そんなの構ってられるか!! 「ふえぇぇ。」 ズカズカと部屋に入ると朝比奈さんがビックリした表情でタオルケットを 握り締め俺を見上げていた。しかし長門の姿は…何処にも…無い! 「トイレにでも行ってるんでしょ。」 扉には鍵がかかっていたぞ!! 「じゃあ鍵を持っていったんでしょ。誰かさんみたいな変質者が 部屋に入ってくると困るしね。とにかく、寝ぼけるのもいい加減にしてよね。 今度あたしの安眠を妨害したら許さないんだからね!」 そう言うとハルヒは俺を部屋の外に押し出し、有無を言わさず扉を閉めた。 そんな………長門……どこに行っちまったんだ… 扉の前で呆然としているといつの間にか起き出していた古泉が声をかけてきた。 「トイレにも長門さんは居ないみたいですね。随分取り乱されてましたが 何かあったんですか?」 俺は部屋に戻るとさっき見た夢のことを古泉に話した。 「なるほど…単なる夢と片付けてしまうのは簡単ですが出てきた相手が 長門さんだけに気になりますね。たまたま散歩に出かけていた、という オチなら助かるんですが…」 この時間に散歩なんて不自然だろ!!また俺は声を荒らげていた。 「落ち着いて下さい。もし本当に何か起きているなら単独行動は危険です。 この時間に出歩くのもミイラ取りがミイラになりかねません。 それに本当に杞憂である可能性だって残っています。 …ひとまず今夜は休みましょう。」 反論しようと思ったが出来の悪い俺の口はついに言葉を紡ぐ事はなかった。 …俺は力なく布団に横たわる。 「逃げて。」 悲しげにそう言った長門の声がいつまでも頭から離れなかった… 気がつけばいつの間にか夜は明けていた。 結局俺はほとんど眠ることができなかった。 そして…朝になっても長門は戻っていなかった。 流石にハルヒもやばいと思ったのだろう村の人達にも応援を頼み みんなで方々を探し回った。 (俺は村人に得体の知れない何かを感じていたので、正直あまり村人と 接触したくはなかったのが、そうも言ってられない。 あと、長門が行方不明だと分かるやまた朝比奈さんが真っ青な顔で 錯乱状態になった為、朝比奈さんには宿で安静にして貰っている。) 日が落ちて捜索できなくなるギリギリまで俺達は村中を必死に 探し回ったが、ついに長門は見つからなかった。 肉体的疲労もピークに達していたし、何より長門が行方不明だという 現実が俺達をより一層疲労させていた。 仕方なく、重い足取りで俺達は宿に戻った。 俺が部屋に入り今後の事を考えようとした矢先、ハルヒの叫び声が聞こえてきた。 「ちょっとみくるちゃん、何やってんの!やめなさい!!」 俺は慌ててハルヒ達の部屋に飛び込む。 部屋の中を見ると朝比奈さんが壁際に座り込んで何かしていた。 …何を…してるんだ…? 朝比奈さんの方に近寄っていくと耳障りな音が聞こえてきた… カリ、カリ、ガリ、……… カリ、……、カリ、… カリ、カリ、カリ、………、ガリッ、… っ!!!!????!!!! 俺は一瞬自分の目を疑った。 朝比奈さんは…壁際に座り込み…模様を描いていた… 円に内接する上向きに尖った三角の模様…! それを…何個も!何個も!!何個も!!! それこそ壁がその模様で埋め尽くされるくらいにっ!!!! しかも自分の…爪を使って!!!!! 爪はボロボロに欠け…あるいは歪み…指先からは血が滲んでいる!! そしてその血は壁に赤黒く禍々しい陰影を…塗り込めていく!!!!! しかもまた声にならない声をひたすら繰り返して!!!! 「何ボケっとしてるよ!あんた達も手伝いなさい!!!」 ハルヒにそう言われやっと我に返った俺と古泉は 慌てて朝比奈さんの手を取る。朝比奈さん、落ち着いて!! どう言っても朝比奈さんは手を止めなかったので仕方なく両手両足を縛って 大人しくして貰った。これ以上あの白魚みたいな綺麗な手が 傷だらけになっていくのは耐えられないからな。 「なんで…こんな事になっちゃったの…」 「朝比奈さんは繊細な方ですからね。ショッキングな事件が連続で起きて 動転しておられるんでしょう。」 珍しく弱音を吐いたハルヒに古泉がフォローを入れる。 そうだな、朝比奈さんには刺激が強すぎたんだろう。長門が見つかったら すぐにここを引き払った方が良いだろうな。 「そうね、とにかく有希を見つけてできるだけ早く ここを立ち去りましょう。 明日も有希を探さないといけないし、今日はもう寝ましょう…」 そういう訳でその日はみんなすぐ床についた。 昼間の疲れもあって眠りの闇に落ちるのも一瞬だった。 だが、またしても俺に安眠は訪れなかった… 「起きて。」 この声は………… …………長門!!!!???? 俺は跳ね起きた!…勿論夢の中でだが。 「このままでは手遅れになる。早く起きて。」 どういう事だ? 「説明している時間はない。起きて。」 起きろって言われても…と困惑した俺だがどうやらなんとかなったらしい。 不意に俺は意識を取り戻した。 しかし、最初に目に入ったのは天井ではなかった。 ……古……泉…… なんと古泉の顔がすぐ間近に迫っていた。何やってるんだ気色悪……!? 古泉の様子がおかしい…親の仇にでもあったかの様な形相で俺を睨み付けている。 しかも、両手を…俺の首に…かけながら!!!!! は、離せ…!! 声を出そうとするが声にならない…くそっ!どうなってやがる!!! だが幸運の女神はまだ俺を見放していなかった。 「ぐふっ!」 理由はわからんが古泉が一瞬怯んだ。その隙を見逃さず俺は思い切り 古泉を突き飛ばした!! ごほっ、ごほっ… 俺は咳き込みながら立ち上がり電気を付ける。 そこでまた俺は信じられないものを目にした… 古泉は上半身裸だった。しかも胸には下向きに尖った三角に×を重ねた 模様の傷がくっきり刻まれており、今も…血が…流れ落ちている!!!! そこだけじゃない、喉と両手からも血が出ているところを見ると そこも同じようになっているんじゃないか!? 古泉…それ…自分でやったのか……!!!??? その問いに古泉は何かを答えた。だが喉が潰れているのか声にならない… それが分かったのか古泉は一音、一音、区切って口を動かす。 ……ツ……カ……エ…… ツカエ… 使え って言ってるのか? そう聞き返したが古泉は脂汗を浮かべながら懐かしさすら感じる あのニヤケ面で笑っただけだった。そしていつの間にか握っていたそれを 俺に放り投げて渡す。 これは………壁に刺さっていた…白羽の矢!!!??? 俺がそれに気を取られた隙に古泉は窓から飛び出して行った… どうなってんだ…一体…!? 疑問は尽きなかったが昨日も徹夜同然だったし今の事件も想像以上に 俺の気力を奪ったらしい。気が付くと俺は再び眠りの闇に落ちていた… 翌日、俺は目を覚ましてから後悔しまくった。 古泉が素直に逃げずにハルヒ達を襲うという可能性を完全に失念していた! ハルヒ、朝比奈さんどうか…無事で居てくれ!! また俺は隣部屋の扉を叩きつけてハルヒをたたき起こす。 ハルヒは今回も不機嫌だったが2人とも無事でホッと胸を撫で下ろした。 良く考えれば、あの後戻ってこられたら窓は開きっぱなしだったし 俺が一番危なかったんじゃなかろうか…今更ながらゾッとする。 古泉までトチ狂ったとは言いにくかったので 今朝起きると古泉も居なくなっていたとハルヒ達には伝えた。 その日、長門に続き古泉まで失踪したと村人に伝えると村は騒然とした。 俺達は勿論、村の人も昨日以上に人数を集めて2人の捜索に当たる。 …だが結局今日もなんの手掛かりも掴めないまま日が暮れてしまった。 満身創痍で宿に戻った俺とハルヒはそのまま部屋に戻っていた。 連日の疲労で足元がふらついていたんだろう、俺は足をもつれさせて 転んでしまった。 咄嗟にタンスを掴んだのでタンスがずれてしまった。 くそっ!悪態をつきながらタンスを戻そうとして 俺は声にならない声を上げた!!! タンスで隠れていた壁には… 一面に描かれていた…!!! 朝比奈さんが… 描いていた…円と三角のあの模様が…!!!! 壁一面にびっしりと!!!! しかも…ところどころ赤黒く染まっている!!! こっちも爪で血を流しながら描き殴ったに…違いない!!!!! なんだよ!!これっっ!!!!
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『情緒クラッシャー』 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「食ってねぇ」 「言い逃れなんてしても無駄よ!机の上に空の容器が…」 蹴り飛ばされる机。身をすくませるハルヒ。 「食ってねぇ」 「…わかった。食べてないのね」 「あぁ。食ってない」 「…そう」 「謝れよ」 「え…」 「謝るんだよ。俺に。当然のことだろう?勝手な憶測で人を疑ったんだから」 「………」 床に手を付き頭を下げるハルヒ。 「…疑ってごめんなさい」 「…それから?」 「え?」 「さっきのは疑ったことについての謝罪だろ?二度も同じことを言わせたことについての謝罪がないじゃないか」 「…二度も同じことを言わせてごめんなさい」 「いいよ。気にしてないから。俺そういう細かいことを引きずる方じゃないんだ。ただ次からは注意してくれよな。俺はお前のことが大好きだからさ。 もう殴ったりしたくないんだよ。顔面がかぼちゃみたいになってたり、足引きずったりしてるハルヒを見るのはホント辛いんだよ。 なぁ?分かるよなハルヒ?」 「…うん」 「『うん』?」 「は、はい!」 「いい返事だ、ハルヒ。 分かったらさっさとパンツを下ろせよ。あと今週の分な」 「ひぃふぅみぃ…足りてないぞ」 「あの…そのことなんだけど…もうこれ以上…家からお金持ってくるのは…」 ゴッ 「俺は足りてないって言ったんだよ」 「………」 「当たり前だろ。家の金を取るなんて親御さんに悪いじゃないか。だからそれ以外の方法を取ってるんだろ」 「…キョン…お願い…私…限界なの…」 「あ?」 「もうキョン以外とするのイヤ…イヤなの…お願い…もう…」 「…そうか。お前は死ねって言うんだな、俺に。借金があって大変な俺に。そりゃそうだよな。好きでもない男とするのなんて誰だってイヤだよな。 俺だってイヤだよ、大好きなお前を他の奴に抱かせるのなんて。愛してるからな。ハルヒのこと。分かった。死ぬよ、死ねばいいんだろ。死ねばお前も満ぞ…」 「嘘!嘘だから!もっと…もっと私稼ぐから…我慢して…もっといっぱい…!!だからお願い…冗談でも死ぬとかそんな…!」 「そう言ってくれると信じてたよハルヒ。次の分は今日の足りてない分とペナルティー合わせて…4万追加でいいや。お前も少しは寝ないと体もたないだろ?」 「…ありがとう」 「いいって。さ。尻上げろよ。今日はあんまり時間が無いんだ。帰りに長門の家に寄らないといけないんだ。あんまり待たせると可愛そうだからな。あれでアイツさびしがりなところあるんだぜ。あー…きもちぃー♪」 「キョン…私、キョンの彼女なのよね?あ…ん…私達…付き合ってるの…よね?」 「当たり前だろ。あ、今日安全日だっけ?違った?まぁいいか。とにかく出すからなー。 あ、後、次からは焼きプリンで頼むな。今日のはあんまり好きじゃないんだわ」 「う…うぅ…」 「愛してるぜーハルヒー」 ガチャ… ハ「いやっほ~キョ…」 キ「ハルヒ、うるさいぞ、長門は今読書中なんだ、静かにしてあげなさい」 ハ「ごめんなさい…キョン、有希…今日はもう帰るね」 キ「………」 長「………」 バタン 長「………(ハルヒの奴、キョンに注意されて帰ってやんのwwwwwざまぁwwwwww)」 『右から左へ』 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 キョン「次の休みどこ行きます?」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン!?」 みくる「そうですねぇ。あ。そろそろ紅葉がキレイな季節じゃないですか?」 ハルヒ「あたしのプリン食べたでしょ!?」 古泉「なるほど。紅葉狩りというわけですね。確かに今が一番いい時期かもしれません」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?キョン!?」 長門「こうよう…」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 キョン「お。長門、紅葉を知らないのか」 ハルヒ「ちょっと!ちょっと!キョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 長門「………」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしの、あたしのプリン食べたでしょ!?」 みくる「えっとぉ…冬が近付くと一部の植物がぁ…」 ハルヒ「ちょっと!あたしのプリン食べたでしょ!?」 古泉「朝比奈さん、百聞は一見に如かず。理屈よりも、連れて行って差し上げれば一目瞭然ですよ」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン、プリン食べたでしょ!?」 キョン「決まりだな。正直ボーリングだ、カラオケだって金も続かなくなってたとこだし、ちょうどいいぜ」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?食べたでしょ!?」 みくる「私、お弁当作りますねぇ」 ハルヒ「ちょっとキョン!キョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 キョン「ありがたいなぁ!さ。今日はそろそろ帰りましょうか」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしのプリン!あたしのプリン食べたで…」 バタン ハルヒ「ちょっとキョン! 咽喉が渇いたから『ドンッ!』っ!?」 キョン「何だって?」 ハルヒ「な、何するのよ! 吃驚するじゃ『ドンッ!』ひっ!?」 キョン「だから何だって?」 ハルヒ「や、やめて『ドォンッ!』よぉっ!?」 キョン「聞こえねーよ。何が言いたいんだよ、ったく」 ハルヒ「つ、机『ドン!』っひ、ぃ、『ドン!』蹴らない『ドォン!』で、よぉ……」 キョン「あー? 聞こえねーっつーの」 ハルヒ「……うぅ」 ナッパ「白菜うめぇwwww」 あたしは今いじめにあっている。 でも、そんなの中学からのことだった。 みんな馬鹿だからそうなんだって思ってた。 でも、高校に来ていじめはエスカレートしていった。 移動教室から帰ってくると机には「気違い死ね」の文字が書かれていた。 それだけじゃなくて、鞄にも「キモイ死ね」の文字。 ご丁寧にも油性のマジックで書くものだから落ちない。 水で洗っても洗っても落ちない。 部室に行く時は手で隠しながら入った。 ばれたら嫌だったから。 汚れた机を雑巾で拭くと、周りでクスクスと蔑む声が響いた。 でも、あたしのが頭もいいし、顔だっていい。 運動神経だっていいし、こんなやつら一撃で倒せる自信がある。 でも、それはできなかった。 過去に余りに腹を立てて男子を殴ってしまったことがあった。 もちろんあたしは勝った。 でも、次の日集団で来てあたしをリンチした。 ブラジャーを取られて排水溝へと投げ捨てられた。 それがどんどんエスカレートしていった。 止まる事はない延々と続けられる嫌がらせ。 耐えられなくなってあたしはキョンに相談した。 キョンは親身になって聞いてくれた。 あまりの嬉しさに、今までの孤立感、屈辱、羞恥、全てが涙に変わっていた。 その時、あたしはキョンに身体を許してしまった。 次の日、キョンは殺人的な言葉を口にしていた。 「あいつ抱いてやったよ。くせぇしきたねぇし、顔だけだな。ヤリマンだなありゃ」 取り巻きは爆笑。 あたしは人間不信に陥っていった。 誰に相談すればいいんだろう? 悪いのはあたし? あたしは一度だけ自殺を試みました。 紐で首を縛って、力いっぱい引っ張りました。 でも、死ねませんでした。 生きていることに気付いた時、あたしの目からとめどなく涙が溢れました。 今でもあたしは馬鹿な人の卑劣ないじめに耐えています。 悪いのはあたし? 馬鹿キョン馬鹿キョン! と。何度も俺の頭を叩くハルヒの手首を握って制止し、 「止めろ!」ドスの聞いた声と共に、と睨みつけた。 「いい加減にしろ! ったく、毎度毎度。俺はお前の奴隷じゃないんだぞ!」 「何よ! 何か文句あるっていうの。キョンの癖に!」 怖じもへったくれもなく睨み返してきやがる。 その目が、口の聞き方が、傲慢な態度が、全部が癪に触る。 「あんたは黙って私のいう事を聞いていれば良いの!」 「だから! 俺はお前の奴隷じゃないっつーの!」 「はん! 何よ! 文句あるの! 無いわよね! あんたは奴隷よ、奴隷!」 「――っ!」 目の前が真っ赤になった。血が上るどころか、瞬間沸騰した。 何度かこういう事はあったが、桁が違う。止める奴も居ない。 衝動は思考を陵駕する。本気で握りしめた拳は、力の限り振り切られた。 「っ!?」 イスを巻き込み、机にぶつかり、吹き飛ぶハルヒの体。 顎を殴られたうえに、頭を机にでもぶつけたのだろう。 「う、あ、あぁ……っ」 顔を両手で覆い、気持悪い呻き声を上げながら、ジタバタと床の上で跳ねる。 「……もう一回言ってみろ」 髪の毛をつかみ引き摺って、無理矢理に身体を起こす。 痛い痛い痛い……! と喚き散らす。唾を飛ばし、口の端から血を垂らし、喚く。 「な、に……」 すんのよ、とでも言いたかったのだろうか。 言葉が続く前に、顔面を机に思い切り打ちつけてやった。 「おい、聞こえないぞ。しゃきっとしろよ」 髪の毛を引っ張って顔を起こし、耳元で呟いた。 ハルヒはぼろぼろと涙をこぼしながら、鼻血を垂らしている。 俺の顔を見て「ひっ」と顔を痙攣させた。あぁ、どうやら俺が恐いらしい。 「ほらほら。もう一回言ってみろよ? 俺はお前の何だって?」 恐がらせないように、とびきりの笑顔でワンモアトライ。 「ごめ……ん、なさ……い」 ガン! 「……ご、め……な、」 ガン! 「や……め、」 ガンガンガン!!! 「……」 パクパクと口を引き攣らせている。 どうやら「ゆるして」と言っているらしい。 俺はずい分可愛くなってしまったハルヒの顔に唾を吐き、部室を出た。 ハルヒ「みんな聞いて、大ニュースよ大ニュース!!」 !...あれ?あんただれ?」 美代子「引っ越し・引っ越し・ さっさと引っ越し、シバくぞ!」 鶴屋さん「繰ーりー出せー鉄拳~♪」 みくる「ふぇ~」 長門「無理です…」 ハルヒ「ハブられた…」 キョン「あははー」 ハ「やっほーみんな」 キ「お前誰だ?」 ハ「はぁ?何言ってんのアンタ?私はハルヒよ!」 キ「お前こそ頭大丈夫か?はるひはそこに居るだろう」 は「え?呼びましたか?」 ハ「え?」 ハ「……」 ハ「ちょっちょっちょっちょっと!まってアンタ私の派生キャラじゃない!なに私の団長椅子に座ってんのよ!」 は「え?えぇ?あ、あのー」 み「どこの誰か知りませんがはるひちゃんをいじめないでくれませんか?」 キ「つーか派生キャラ?何を言っているんだこいつ?そうかキチガイだ……よし古泉コイツを職員室に連れてくぞ」 古「わかりました」 ハ「ちょっと!話なさいあんた達私が」バタン み「……よしハルヒちゃん今日はめいどさんの服着てみようか?」 は「え?またですか?」 長「…スク水巫女服もある」 は「あ、じゃあめいどさんの服をください」 み「はーいじゃあそっちでお着替えしてくださいね~」 長「スク水巫女服……」 ハルヒ「すごいことを発見したわ!」 キョン「なんだイキナリ」 ハルヒ「谷口のWAWAWAについてよ!」 キョン「ああ、アレについてね。何だ言ってみ、聞くだけ聞いてやる」 ハルヒ「いい?谷口のWAWAWA…パソコンで入力してみてよ、キーボードに注意して!」 キョン「なんでだよ」 ハルヒ「いいから!」 キョン「まったく…、w・a・w・a・w・aっと…ん?…こ、これは!?」 ハルヒ「そう!つまり谷口は突 徒 子 公 太 郎 だ っ た の よ !」 キョン「なんだそんなことかよ…」 ハルヒ「(´・ω・`)」 キョン「…ヌプ」 古泉「ひゃっ!?キョ、キョンたんのえっちぃ!」 キョン「…ドピュ」 古泉「いや~///」 長門「ヴァギナー!!!」 キョン「ちょ、直球だな小娘…」 古泉「…わ?」 長門「ノン ノン ノン 『ヴァ』」 キョン「クチュ…」 長門「ヴァギナー!!!」 古泉「ゃぁ~///」 ハルヒ「ちょっとぉ、ちょっとちょっと!なんで有希は良くて私は無視するのよぉ!?」 キョン「………」 古泉「………」 ハルヒ「なんとかいいなs 長門「ヴァギナー!!!」 ハルヒ「ちょ/// 有希うるさっ 指指すなぁ!///」 古泉「か~え~る~の~う~た~が~」 キョン「か~え~る~の~う~た~が~」 長門「き~こ~え~て~く~る~よ~」 ハルヒ「き~こ~え~て~く~る~よ~」 古泉「………」 キョン「………」 長門「………」 ハルヒ「な、なんなのよあんた達最近!!も、もう知らないんだからっ! ウワァァン。゚(つд`゚)゚。」 バタン 古泉「………」 キョン「………」 長門「……グワッ」 古泉「グワッ」 キョン「ゲロゲロゲロゲロッ」 長門「グワッ」 古泉「グワッ」 キョン「グワッ」 ハルヒ(なんなのよちくしょー!) ハルヒ「あれ?…そういえば最近みくるちゃん見ないわね…」 古泉「………プッ」 長門「………プリッ」 キョン「ひゃ~いw」 ハルヒ「な、何よ、あんた達何か知ってるの?」 古泉「or2=3 プッw」 ハルヒ「腐っ! なによ!い、言いたいことがあるならっ、て本当に臭い!!」 長門「ケアル」 キョン「長門はケアルを唱えた。でもみくるんはアンデッドだった…」 ハルヒ「な……そ、それどういう意味?」 古泉「裏切りに」 キョン「死を」 長門「巨乳に」 キョン「制裁を」 ハルヒ「ちょっと、ちょっとちょっと!あんた達みくるちゃんに何をしたのよ!?」 みくる「あの…私ならずっとここにいるんでしゅけど…」 ハルヒ「答えなさいよキョン!」 みくる「またでしゅか?また無視でしゅか?いい加減にしないと泣きましゅよ?」 ハルヒ「なんで無視するのよ!!」 みくる「せ~の、」 ハルヒ・みくる「ウワァァン。゚(つд`゚)゚。」 キョン「あ~る~日♪」 古泉「あ~る~日♪」 キョン「森の中♪」 古泉「も、もも森さんの膣内…ハァハァ」 キョン「ハルヒに♪」 古泉「電波を」 キョン「出会った♪」 古泉「受信した♪」 キョン「はぁ…」 長門「まぁそうクヨクヨすんなよ。そのうち良いことあるって、なっ?」 キョン「長門…ありがとう…俺頑張るよ!」 古泉「しょ、しょんなことより僕の替え歌どうでしゅたか?」 キョン「イェーイ!イツキたんサイコーwww」 長門「なんか涙出てきた…GJ!」 ハルヒ「………」 シンジ「泣いてるの?」 ハルヒ「な、泣いてなんかないわよ!」 キョン「わいわい」 古泉「がやがや」 長門「きゃっきゃっ」 ハルヒ「ねぇ!みんな今度の連休ぅ……」 キョン「………」 古泉「………」 長門「………」 ハルヒ「あ…ううん、なんでもない…」 キョン「わいわい」 古泉「がやがや」 長門「ざわざわ…」 ハルヒ「………グス」 獅子丸「ハルヒちゃん泣いてるの?」 ハルヒ「な、泣いてなんかっ、て誰よあんた!?」 長門「部室の蛍光灯を白熱灯にしてみた」 キョン「いいんじゃないか。部屋の雰囲気が落ち着いた気がするよ」 古泉「なんか…眠いよ…(つω-`)ゴシゴシ」 キョン「ハハハwまったく、イツキは子供だなぁw」 長門「子守り歌歌ってあげるね」 古泉「う…ん……zzZ」 長門「あら…必要なかったみたい」 キョン「そうみたいだn ハルヒ「歌なら私に任せて!!!」 キョン「!」 長門「!」 古泉「うわっ!なになに!?」 キョン「……チッ」 長門「……ちっ」 ハルヒ(あぁ…伝わる、ただの舌打ちなのに色んな感情が伝わってくるわっ! 主に『空気読めよ電波』みたいな刺々しい負の感情が……!!嬉しい、キョンが今だけは私を無視しないでいてくれてる!) 長門「涼宮アヒルの憂鬱」 ハルヒ「ガアガア、って誰がアヒルじゃい!」ビシィ キョン「おーッと、団長様のノリツッコミだッーーー!サイコーだぜウチの団長はよォッーーー!」 古泉「団長!団長!」 みくる「団長!団長!」 鶴屋さん「団長!団長!」 コンピ研部長「団長!団長!」 コンピ研ズ「団長!団長!」 長門「団長!団長!団長!!団長!!」 一同「団長!!!団長!!!たすけて団長ォーーー!!!!」 ♪~~♪~~♪~~♪~~←あの曲 ハルヒ「わ私が悪かったです!謝りますからどうか、テンションをお鎮め下さいィ~~」バッサバッサ 不思議探索当日。 ハルヒ「キョン遅いわよ罰金ね!」 ハルヒ「じゃあいくわよ、古泉君、有希!」 ハルヒ「午前は大した成果が無かったわね…午後こそ何か見つけること!」 ハルヒ「…今日も何も収穫無し、ね。じゃあ解散、また学校でね」 ハルヒ「………全員にボイコットされたからって一人芝居は寂しかったかな………」 「ハルヒ、好きだ。付き合ってくれ」 「ええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」 「なんだその驚きようは、失礼な」 「何言ってんのよ、あのね、あたしはね、あの、その、そう! つまり団内恋愛は禁止なのよ! わかった? わからなくてもだめー」 「ふふふ、そう言ってくれると思ったぜハルヒよ」 「? ?? ??? なに? なんなの??」 「というわけだ、谷口。俺の勝ちだな」 「ちぃっ、俺の告白も断らなかった涼宮がよりによってキョンの告白を断るとはな……しかたない、麻雀のツケはチャラにしてやる」 「古泉ばっかり相手にしてるとゲームの腕が落ちるんだよなー、ハルヒ、こんどはゲーム付き合ってくれよ」 「まさか、あんたたちあたしがキョンの告白を受け入れるかどうかで賭けしてたんじゃないでしょうね」 「おいキョン、ちょっとヤバイ雰囲気じゃねーか?」 「そうだな、逃げるぞ!」 「待ちなさいこのアホバカども~!!」 「あたしはただ、キョンに告白されたいなって思ってただけだったのにぃ……ぐすん」 長門「SOS団の団長は私。文句ある人は?」 ハルヒ「(´∀`)∩はいぃ~~」 キョン達「異議無し」 ハルヒ「(;´∀`)何でぇ~~?」 長門「新団長をよろしく」 キョン達「団長!団長!よろしく団長!」 ハルヒ「(;´∀`)さみしぃ~~」 キョン「あああああああ!!クッソ涼宮がっ!!ウッゼェェエエエんだよヴォケナスがあぁぁぁあ!!!!」 キョン「死ねっ!!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇええ!!!」 ハルヒ「(ヒッ!やだ、また犯されちゃう……でも、)」ビクビクッ ハルヒ「ちょっと…みんな、私を無視しないでよ……」 ハルヒ「……無視っていうか全員にボイコットされたんだけどね……部活……」 ハルヒ「ちょっと…キョン、私を無視しないでよ……」 キョン「………( ゚ ж ゚;)プルプルプル」 ハルヒ「キョン……どうして私を無視するのよぉ!」 キョン「………(((((; ゚ ж ゚ )))))ガタガタガタブガクルブルブル」 授業中にクラス一のブスの顔に髭が生えてるのを発見した時の俺のリアクション。 はるひ「みんな~次は何して遊ぶ?」 キョン「じゃあおままごとなんかどうだ?」 はるひ「いいよ~じゃあキョンくんが旦那さんで私が奥さん、いつきくんが子供でみくるちゃんはペットのポチ、有希ちゃんはタマだよ~」 古泉「なるほど、父との禁断の関係に溺れる息子の役ですね」 みくる「私はご主人様の忠実なメス犬です♪」 長門「了解、アパートの隣に済む旦那を狙う泥棒猫の役と認識」 幼子の前で何を言い出すんだこいつら はるひ「ちがうよ~へんな設定を付け足さないでよぉ」 ほら見たことか、わけが分からず泣いちゃったじゃないか 古泉「すみません軽いジョークですよ」 みくる「ごめんねはるひちゃん」 長門「謝罪する」 キョン「どうするはるひ?」 はるひ「えへへへじゃあ良いよ!みんなであそぼ」 古泉「(やはりこちらのはるひさんに着いて正解ですね)」 長門「(能力が同じならば観察しやすい方をとる)」 みくる「(しかしあちらのハルヒさんはどうします?)」 古泉「(最近能力自体が弱まっているのが観測されてるので、消滅は近いでしょう)」 長門「(ほっておくのが得策)」 みくる「(ですね)」 ハルヒ「何のつもりよ!!!早くここから出しなさいよ!!」 キョン「フン」 10日後 ハルヒ「いやぁぁぁ・・・・・はやくお家へ返してよぉぉぉ」 キョン「フヒヒヒヒ」 古泉「おい 俺にもやらせろよ」 みくる「あ、ずるい あたしが先!」
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ハルヒ「いやっほー!!!みくるちゃん、行くわよー!」 みくる「あ、はーい」 古泉「この暑さだと言うのに元気ですね、涼宮さんは」 キョン「お前は泳がないのか?」 古泉「自分はちょっと準備しなければいけないので失礼」 古泉は微笑みながら海の家に向かって歩き出した 俺はビーチパラソルの下で本を読んでいる長門を見た つーか、わざわざ海まで来て読書なんだ? まぁ、海に来たからって泳がないと妖怪・わかめ野郎に襲われるって訳じゃないんだし・・・ 長門「・・・・・」 キョン「泳がないのか?」 長門「・・・・・あとで」 キョン「そうか・・・俺もそろそろ行くか」 俺は海に向かって歩き出した と、急な話だが我がSOS団は海に来たのである 話は3日前になる …………… ………… ……… …… … ハルヒ「急だけど3日後に海に行くわよ!」 いつもの喫茶店でハルヒは言った 今日はパトロールと緊急ミーティングの為、全員喫茶店にいるのだ ハルヒは本当に急なことを言い出すから困る 俺は自然に溜息をついた 古泉はアメリカ人みたいなお手上げのポーズをしている 朝比奈さんは目が点になっている 長門は・・・いつもどうりだな 誰もハルヒに質問しないから俺は仕方がなく聞いた キョン「何故だ?」 ハルヒ「特に理由なんて無いわよ」 キョン「海なら行っただろ?あの孤島で泳いだりしたじゃないか」 ハルヒ「あら、海に2回行ったらいけないって法律でもあるわけ?」 確かに、そんな法律なんてない もし、あったとしたら日本の偉い人はなにやってんだと思う ハルヒは本当に理由など無く、SOS団で海に行きたいだけなのだ キョン「まて、皆の予定とかあるだろ?」 古泉「その日なら僕は空いていますよ」 みくる「あ、あの~、私も大丈夫ですよ」 長門「・・・・・コクリ」 ハルヒ「決定!3日後に行くわよ!」 ちょっと待て、俺の事情とかは無視か? ハルヒ「どうせ暇でしょ?」 まぁ、その日は何もすることが無いので暇だ ハルヒ「車は従兄弟のおじさんが出してくれるからそこらへんは大丈夫よ!」 みくる「も、もし良かったら、お弁当でも作ってきましょうか?」 ハルヒ「さっすがみくるちゃん!気が利くね!」 朝比奈さんがお弁当を作ってくれるなんてこんなレアなイベントは無いぞ 古泉「僕はビーチパラソルとか色々持ってきましょう」 長門「・・・・・ビニールシート」 ハルヒ「うんうん、流石SOS団ね!」 海に行くことが決定し、緊急ミーティングは終った そして、いつものくじ引きをしてパトロール 赤い印が付いている爪楊枝を引いたのは 俺、古泉、長門 そして無印の爪楊枝を引いたのは ハルヒ、朝比奈さんだ キョン「お前の仕業じゃないのか?」 古泉「今回は僕の仕業じゃないですよ ただ単に皆で海に行きたいだけじゃないですか?」 なんだ、てっきり機関のヤツが協力しているのかと思った 古泉「最近では閉鎖空間の数も減りましたし、そんな事をする必要が無いのですよ」 古泉は微笑みながら言った 結局、何も不思議なことが無いままパトロールは終わった ハルヒ「今日は解散!集合時間とかはメールでするからね」 古泉「じゃ、これで」 みくる「さようなら~」 長門「・・・・・フリフリ」(手を振っている) 俺は自転車置き場に行き、家に帰った 帰り道に妹にバレないようするにはどうすればいいのかと考えていた ―――そして3日後――― ハルヒ「遅いじゃない!もう9時15分よ!」 集合時間の9時30分には間に合ってるからいいじゃないか てか、なんで皆こんなに早いのか? もしかして、メールで早めに来るように連絡しあっているのか?・・・まさかな ハルヒ「キョン!海の家で皆にジュース奢りなさいよ」 キョン「わかったよ」 いつもの事だからなれた・・・ってなれていいのか? 自問自答しならがハルヒの従兄弟のおじさんの車に乗った …………… ………… ……… …… … そして今に至るのだ ハルヒ「ちょっとキョン!遅いじゃない!」 ハルヒと朝比奈さんはビーチボールで遊んでいた みくる「はぁい、キョン君」 ポーンッと朝比奈さんからのパス・・・ハルヒが居なければ周りから見るとカップルに見えてるだろうに とボールを取ろうとした瞬間 ハルヒ「隙あり!」 キョン「うぉあっ」 ザッバーン あれだ、海に行ったらお約束と言ってもいいのか? キョン「な、何しやがるっ!」 ハルヒ「隙を見せたあんたが悪いのよ!」 技名は知らんがハルヒは急に俺を投げたのだ おかげで海水飲んじまったじゃねぇか 俺とハルヒが言い争っている間に朝比奈さんが みくる「あ、あれって・・・」 キョン「・・・・・ん?」 俺は目を細め、朝比奈さんが見ている方向に目をやった まぁ、アレだ、まさか本当にこんな状況があるなんて考えもしなかった ハルヒ「さ、サメよ!!!」 ジョーズだか何だけ知らないがサメ注意報など聞いていないぞ 俺と朝比奈さんとハルヒは猛ダッシュで逃げようとしたその時 みくる「あうぅ~」(ピシッ) どうやら足を攣ったらしい キョン「あ、朝比奈さん!!!」 みくる「ふ、ふぇえ~ん」 誰もがダメだと思ったその時 ザッバーン 古泉「あれ?驚きました?」 サメの正体は古泉だったのだ 古泉「まさか、こんなに驚くとは思いませんでしたよ」 サメに変装・・・とは言っても背びれとか着けてるだけなんだけどな ハルヒ「ちょ・・・古泉君!?び、ビックリしたじゃない!」 みくる「もう・・・ヒック・・・ダメかと思いました・・・ヒック」 キョン「大丈夫ですか?」 と、俺はすぐに朝比奈さんに駆け寄った 古泉め、朝比奈さんを泣かした代償は大きいぞ ハルヒ「古泉君!バツとして皆に焼きトウモロコシ奢りなさいよ!」 古泉「そこらへんは覚悟していましたよ」 そこらへんも計算していたんだな ハルヒ「ん・・・そろそろお昼の時間ね」 なんで分かるのかは置いといて・・・いいのか? 俺達は長門が居るビーチパラソルに戻り、朝比奈さんが作った弁当を食べる事にした みくる「あんまり自信ないですけど・・・」 いやいや、何言ってるんですか 例え、塩と片栗粉を間違えたオニギリでも美味しいに決まっていますよ ハルヒ「いっただっきまーす」 キョン「いただきます!」 長門「・・・・・いただきます」 みくる(ドキドキ) 俺は可愛らしいタコさんウィンナーを食べた 見た目は普通だが味は格別 フランス人が食べたらきっと腰を抜かすだろうと思うぐらいに美味い、美味すぎる キョン「とても美味しいですよ」 みくる「キョン君、ありがとう」 朝比奈さんは見るものすべてを悩殺する位の笑顔で俺に言った 死ぬ前に食べたい物は? と聞かれたら即答で答えるね 朝比奈さんが作った弁当だと しばらくして、古泉が焼きトウモロコシを持って来た 古泉「あ、ズルイですよ 先に食べるなんて」 みくる「ご苦労様です、お茶飲みますか?」 古泉「ありがとうございます」 憎い、憎いぜ古泉・・・ ハルヒ「本当に美味しいわよ、みくるちゃん」 みくる「ふふ・・・ありがとう」 長門「・・・・・」 こいつは無表情でパクパクと食べている・・・こいつには味覚とかあるのかと考えてみたがやっぱりやめる 楽しい会話もしながら俺達は昼飯を食べた ハルヒ「さ、ジャンケンよ!負けた人がアイス買ってきてね」 みくる「ま、負けませんよ~」 古泉「じゃ、僕はグーを出しますね」 長門「・・・・・コクリ」 キョン(嫌な予感がするぜ・・・) ハルヒ「じゃーんっけーん」 全員「ホイッ!」 ……… …… … 結果は俺の負け・・・まぁ、予測していたがな 俺は海の家に向かって歩いていると後ろから ハルヒ「ちょっと待ちなさいよ」 ハルヒが小走りで来た 何故だ? ハルヒ「あんたが何味を選んでくるのかが心配だったのよ」 おいおい、俺のセンスが悪いみたいな言い方だな 少しばかり歩いて、海の家に到着 ハルヒ「おじさーん、オレンジ3つとミルク2つね」 おじさん「まいど! おや、お二人お似合いだね」(ニヤニヤ) 冗談でもやめてくれ・・・と思いたいのだが、何故か満更でもなかった ハルヒ「何ニヤニヤしてんのよ」 キョン「そう言うお前も顔真っ赤だぞ?」 ハルヒ「ち、違うわよ! ひ、日焼けよ、そう、日焼けよ!」 変に強調すると逆に怪しいぞ ハルヒ「さ、戻るわよ」 ハルヒはアイスを受け取り先に歩いた なんだ、コレがツンデレってヤツなのか? キョン「お、おい ちょっと待てよ」 俺が行こうとした瞬間 おじさん「ま、頑張るんだよ」(ニヤニヤ) 俺は無視してハルヒを追った ハルヒ「はい、みくるちゃん、ユキ」 ハルヒはオレンジ味のアイスを渡した キョン「ほれ、古泉」 古泉「どうもすみませんね・・・ところで涼宮さんと何かありました?」 キョン「・・・なぜわかる?」 古泉「おや? 冗談で言ったつもりなんですが・・・」 しまった、墓穴掘ってしまった キョン「おい、アイス返せ」 古泉「食べかけですがいいのですか?」 俺は溜息をついた 古泉「ふふ・・・涼宮さんを見ていれば分かりますよ」 お前はハルヒの何なんだ? 古泉「ま、とりあえず頑張ってください」 何をだ ドイツもコイツもまったく・・・ ハルヒ「さて、休憩もしたところだし皆で泳ぐわよ!」 長門も泳ぐ気になったのか、本を閉じて皆とビーチボールで遊んでいる 古泉「いきますよ、朝比奈さん」 みくる「あ、はい」 古泉「そーっれ!」 古泉の投げたボールそこそこ早い やらせるか! キョン「とぁーっ!」 俺が飛び込み、朝比奈さんをかばおうとしたその時 古泉「マッガーレ」 ハルヒ・キョン「すごっ!」 なんと古泉が投げたボールが曲がったのだ その曲がったボールは長門に向かって行った が、長門は何も変わりなくキャッチ 流石だぜ長門 ハルヒ「古泉君!どうやったの?ぜひ教えてほしいわ」 何故か古泉は俺に向かってウィンクした 気色悪いぜ キョン「長門大丈夫か?」 長門「平気」 キョン「だろうな・・・」 長門「彼の行動は予測できた」 キョン「何故だ?」 長門「・・・・・・・・秘密」 古泉とはいったいどんな関係なんだ? と考えていたその時、ボールが俺の顔面に飛んできた ハルヒ「今のが戦場だったらあんた死んでいたわよ!」 ありえん、絶対にありえん もしあったとしても曲がり角を曲がったらパンを銜えた少女が・・・(以下略 とりあえず、それぐらいここが戦場だと言う確立は極めて低いのだ キョン「やれやれ・・・」 時間はあっという間にすぎ、もう夕方だ 楽しい時間は早く感じ、嫌な時間は遅く感じることをしみじみ思った ハルヒ「キョン、そっち持って」 ハルヒはビニールシートを片付けていた 古泉「結構焼けましたが・・・どうです、似合ってますか?」 俺は華麗に無視し、ハルヒを手伝った ハルヒ「さて、荷物も片付いたことだし・・・みくるちゃん、夏と言ったら何?」 みくる「え、あ、う、うーん・・・スイカですか?」 ハルヒ「スイカもいいけど、やっぱり花火でしょ!」 ハルヒはバックから花火セットを出した あらかじめ準備していたみたいだな 古泉「お、花火ですか いいですね」 キョン「おい、長門 花火やったことあるか?」 長門「・・・ない」 キョン「そうか、結構楽しいぞ」 長門「・・・そう」 なんだか長門の目が輝いて見えたのは気のせいか、気のせいではないのか ビーチパラソルやら色んな物を片付けているうちに日が落ちてもう夜だ ハルヒ「じゃ、花火するわよ!」 長門「・・・」 長門は花火をじぃっと見てる キョン「これに火を点けるんだよ」 長門「わかった」 長門は線香花火に火を点けてじぃっと見ている 古泉「花火に興味があるようですね、長門さん」 キョン「長門だってそれぐらいあるだろ」 古泉「そうですね」 当たり前だ 長門だって好奇心とかあるだろ ハルヒ「ちょっとキョン、古泉君!これ持って!」 ハルヒは両手に花火を持ってはしゃぎながら言った キョン「やけにハイテンションだな」 古泉「純粋に楽しいからじゃないですか?」 みくる「本当に嬉しそうですね」 未来には花火なんてあるんですか? みくる「ふふ、言うと思いますか?」 朝比奈さんは指を唇に当てて言った ぶっちゃけ可愛いです ハルヒ「コラーッ!キョン、デレデレしないでさっさと来なさーい!」 俺は仕方がなく歩いていった 正直足が痛い ちょっと遊びすぎたか しばらく皆で花火で遊んだ ハルヒはねずみ花火を俺に向かって投げてくるし 長門は線香花火を見ているだけだし 古泉は俺を見てみぬフリ 朝比奈さんはオロオロしている シュルルル... パン! キョン「うぉあ!」 ハルヒはケラケラ笑っている キョン「ちょ、ちょっとノドが渇いたからジュース買ってくる」 ねずみ花火から逃げていたからノドがカラカラだ ハルヒ「あ、私も行く 皆何か飲む?」 古泉「お任せします」 みくる「あ、私もお任せします」 長門「・・・・・」 何だ、ハルヒが奢ってやるのか? ハルヒ「あんたが奢るのよ」 俺は財布と相談したが・・・大丈夫だ 俺達が花火しているところから自動販売機まで少し距離がある 100mぐらい歩いた時だった ハルヒ「ねぇ、楽しかった?」 キョン「あぁ、普通に楽しかったぜ 水着とか見れたしな」 ハルヒ「へ、変態」 俺だって健全な男だ ハルヒ「で・・・どうだったのよ?」 キョン「ん、何がだ?」 ハルヒ「・・・ずぎ・・・」 キョン「はっきり言わんと聞こえんぞ?」 ハルヒ「・・・・・水着似合ってた?」 キョン「あぁ、最高に似合っていたぞ ナンパされないのが不思議だ」 我ながら何言ってんだ 事実だけどな ハルヒ「ば、バカ・・・」 しばらく沈黙が流れ、自動販売機に到着し、適当にジュースを買った キョン「おい、持ってやるからジュース渡せ」 ハルヒ「べ、別に大丈夫よ!」 ハルヒは何故かムキになって全部持っている キョン「無理すんなって」 ハルヒ「大丈夫だって言ってるでしょ!」 キョン「お、おい!」 俺はハルヒの方に手を置き、振り向かせた カランカラン... ハルヒが持っているジュースが落ち、目が合う ハルヒ「・・・・・」 キョン「・・・・・」 鼓動が徐々に早くなっていく・・・ 心臓の音と波の音しか聞こえない ドクン...ドクン...ドクン... ハルヒの顔が真っ赤になっている 多分、俺も真っ赤だな ハルヒ「きょ、キョン・・・」 キョン「・・・・・な、何だ」 変な汗が出ているのが分かる ハルヒ「じ、実は・・・」 こ、この状況は何なんだ? もしかして・・・ ハルヒ「私・・・キョンの事が・・・・」 その時だった 大砲を撃った様な音が聞こえた ヒュ~・・・ドーン! 打ち上げ花火だ 近くの公園でやっているらしい ハルヒ「わぁ~ キレイ・・・」 俺とハルヒはしばらく打ち上げ花火を見ていた ハルヒはまるで、カレーに肉を入れ忘れていていたかのように ハルヒ「あ、ジュース忘れていたわ! い、急ぐわよ、キョン!」 ハルヒは慌ててジュースを拾い 走って行った 結局ハルヒは何が言いたかったんだろう・・・ まさか・・・な 俺はハルヒを追いかけるように走った 古泉「また何かありましたか?」 キョン「・・・何もねーよ」 古泉「ふふ、そうですか」 コイツ分かっているな ムカツク野郎だ キョン「長門、花火はどうだった?」 長門「・・・ユニーク」 どうやら長門は花火に興味をもったらしいな 長門「・・・・・またやりたい」 そうか、やりたかったらいつでも言え 協力してやるぜ ハルヒ「車が来たから帰るわよー!」 ハルヒの従兄弟のおじさんの車が来たようだ ハルヒ「早く来ないと置いて行っちゃうわよー!」 はいはい、今すぐ行きますよ 俺は急いで車に向かった そうだ、ハルヒ 今度来るときはカメラでも持っていこうぜ あと、鶴屋さん、谷口、国木田とか誘って行こうぜ 大勢で行った方が楽しいだろ? おまけで妹とシャミセンも連れて行ってもいいぜ それと、あの時、何を言おうとしたか ちゃんと言ってくれよ 俺は車から見える夜景を見ながらそう思った ~ Fin ~
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朝倉涼子 朝比奈みくる 喜緑江美里 キョン キョンの妹 国木田 古泉一樹 涼宮ハルヒ 谷口 鶴屋さん 長門有希 三栖丸ミコト 森園生